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 とにもかくにも、ツカサはすっかりいつもの調子だ。これならきっと、カナタの作戦は成功するはずだろう。  ……否。必ず、成功させなくてはいけないのだ。 「もうっ! そんなことはどうでも──よくはないけどもっ! とにかく、今はカナタのことじゃなくお主のことじゃ!」 「あはっ、利口なペンギンだなぁ? ここでもしもカナちゃんを『どうでもいい』って言っていたら、お前の胴と頭が分離していたよ? ……それと、先にカナちゃんを引き合いに出してきたのはそっちだけど、それでも俺を責めるのかな? ん~?」 「くっ! 今なら、ダイニングでよく泣いているマスターさんのお気持ちが分かります……っ!」 「照れるなぁ~」  かなりの、強敵。カナタに対するツカサは甘さと優しさで出来上がった【カナタを絶対幸せにするマン】だが、カナタ以外に対するツカサはあまりにも厄介だ。マスターが涙目になりながらカナタに縋り、ウメが向けられる殺意に慣れてしまうほどなのも、納得するしかない。  カナタはぬいぐるみをしっかりと掴み直し、ツカサが立っていると思われる方向に向けて再度、コミカルな動きを繰り広げる。 「こほんっ! 話を戻すぞ! ……ツカサよ。お主、悩みがあるのじゃろう?」 「そんなもの──」 「『ない』という嘘は聞きたくないぞ。誤魔化しはナシじゃ。ワシはずっと、お主を見ていたからな。ならばわざわざ、隠す必要なんてなかろう?」 「って言われても、正直俺って自分の部屋にいる時間よりカナちゃんの部屋にいる時間の方が長いし、つまりお前が知っている【俺】ってその程度なんじゃ──」 「細かいツッコミもナシじゃよ!」  ぬいぐるみを抱えたまま、カナタは手首をブンブンと上下に振った。見ようによってはペンギンが地団太を踏んでいるだろう。  ……さすがのツカサも、そろそろこの人形劇に対して悪ノリを続けるのは得策ではないと理解したようだ。 「……悪いけど、俺はそれでも【ウソ】を選ぶよ。これ以上の醜態を、晒すわけにはいかないからね」  いったいなにが、ツカサをここまで頑なにさせているのだろう。毛布越しに対峙するツカサの気持ちが、カナタには分からなかった。  ……しかし、確実に分かっていることがひとつ。 「ツカサ、よく聴くのじゃ」  ツカサを、頑なにしているもの。……それは、間違いなく【カナタ】だ。その理由が分からなくても、元凶が自分であることは分かっている。  ならば、カナタにできることも自然とひとつだけだ。 「お主が考えていることに対して、ワシは百パーセントの気持ちで理解を示してやれぬ。ワシはお主じゃないからな」 「……そんなの、わざわざ言われなくたって──」 「──ならばお主にも、カナタの考えが等身大で分かるわけがないじゃろう?」  ──ツカサが【カナタ】を理由にして立ち止まっているのなら、ツカサの中に在る【カナタ】を変えるだけ。 「カナタは、お主が思っているよりも強い男じゃ。……いや、まだまだ弱っちい男ではあるが、これからメキメキと強くなるぞ! それはもう、ツカサを尻に敷くくらいには……な、なれる、かな? い、いや! なるっ、なるのじゃっ! なってみせるのじゃっ!」  ──どこまでいっても、カナタが遂げるべきなのは【変化】だった。 「いや、そのっ、あれですじゃよっ? 若干調子に乗っている気もしなくもないかなぁ、なんて……そんな感じも、しますが。だけどオレ──じゃなくて、ワシ。ワシは、そんな気がすると言うか……と、とにかく! そうなんですじゃよ!」  ……多少、頼りなくとも。 「……悩み、か」  カナタが真っ直ぐ想いを伝えた分だけ、ツカサは応じてくれる。無論、その逆も然り。  そんな関係性を築けていると、カナタは胸を張りたかった。

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