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 顔を覗かせたカナタを見て、ツカサはニコリと笑う。 「顔、ちょっと赤いね。毛布の中は暑かった?」 「少し、息苦しかったです」 「そっか。……じゃあ、毛布から出てきてこっちにおいで?」  すぐにカナタは上体を起こし、腕を広げるツカサに抱き着く。  そうするとツカサの両腕が、カナタの体へ即座に回された。 「人形遊びをするカナちゃんもいじらしくて可愛かったけど、ヤッパリ生身のカナちゃんを抱き締める方が幸せだなぁ」  囁くツカサは満足そうに微笑みながら、カナタの頬にキスを落とす。  ほんのりと顔を赤くしたカナタは顔を上げて、ツカサを見つめる。そうすると、ツカサの暗い瞳にカナタの顔が映った。  当然、逆も然りだ。 「嬉しいなぁ。カナちゃんの瞳に、俺が映っているなんて。『目に入れたいし、入れられたい』とは言ったけど、こうして瞳に映っていると本当にカナちゃんの瞳の中に入ったみたい。……あれっ? そう考えると【俺】と【カナちゃんの瞳の中の俺】は別人ってことだよね? そうなると【カナちゃんの瞳の中にいる俺】って【俺】のライバルになるのかな?」 「あの、ツカサさん? 一度、落ち着きましょうか……」  そっと、体を離そうとする。  ……だがカナタの背に回されたツカサの手が、離れようとするカナタの意思を阻止した。 「……ツカサさん?」 「カナちゃん。……さっきの、ホント?」  か細い声が、カナタを呼んだ。  ……まるで縋るように、カナタを呼んでいた。 「本当に、大丈夫……なの? 俺、ホント……あの人を前にしたら、どうなっちゃうのか。自分のことなのに、本気で分からないんだよ……?」  カナタを抱き締めたまま、ツカサはカナタの肩口に額を当てている。 「さっきの言葉がウソだったなんて、思いたくない。裏切られたく、ないよ。……カナちゃんに、嫌われたくない……っ」  こんなにも弱っているのに、なぜかそこはかとない狂気を感じた。  おそらく、カナタがツカサを万が一にでも『嫌うかもしれない』と思わせた場合、ツカサは【狂気】に身を任せてしまうだろう。今までの経験則で、カナタにはそう、分かってしまったのだ。  ツカサと出会ったばかりのカナタは、何度も嘘を重ねていた。保身のために嘘を吐き、恐怖から逃れるためにツカサの機嫌を取っていたのだ。  ……しかし、今は違う。 「オレは今まで、いろんなツカサさんを見てきました」  ツカサの背にそっと腕を回し、そのままカナタはあやすように手を動かす。 「怖い部分も、悲しい部分も。可愛い部分もカッコいい部分も、沢山、沢山見てきました。……それでもオレは、こうしてツカサさんの腕の中にいます」  少し前に、ツカサがしてくれたように。カナタはツカサの頭に、キスをした。 「──だから、大丈夫ですよ。オレは自分の好きなものに自信を持って、胸を張ります。自分の好きなものに、責任を持つって決めましたから」  ゆっくりと、ツカサは顔を上げる。その目は少しだけ不安そうに、カナタを見ていた。 「……うん、そうだよね。カナちゃんは、変わったもんね」  回された腕に、力が増す。少しばかりの苦しさに、カナタの息が詰まる。 「だから、こうして打ち明けられたよ。今の俺は、数分前の俺より幸せ」  酷く幸福そうな呟きにも、思わず。 「大好きだよ、カナちゃん」 「……っ」  カナタは愛おしさから、息を詰まらせてしまった。

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