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カナタを抱き締めたまま、ツカサは独り言のように呟き始める。
「俺もさ? たまにはね、一人でじっくり悩みたい日もあるんだよ。……って言うか、俺はいつも悩みを抱えるとそうだったかな」
「あっ。……もしかしてオレ、凄く迷惑なことをしてしまいましたか?」
「ううん。いいよ、カナちゃんは。カナちゃんは、いい」
ようやく顔を上げたツカサの表情を見て、カナタの頬は赤らむ。
「──だってカナちゃんは、俺の好きな人だもん」
満足そうに笑うツカサはカナタと向き合い、小首を傾げた。
「だからこれからもずっと、俺を見ていてね? そして俺が悩みを抱えたら、すぐに助けにきてほしいな。……ねっ、お願いっ」
「はい、分かりました。オレがツカサさんを守りますね」
「うんっ。俺も、カナちゃんを守るよ」
向き合った二人は、どちらからともなく瞳を閉じる。
近付いた顔はすぐに重なり、二人は互いの体温を分け合った。
……の、だが。
「あ、あのっ、ツカサさん?」
違和感に気付いたカナタはすぐに目を開き、モゾモゾと体を動かし始める。
すぐに終わってしまった口付けが不満なのか、ツカサは眉を寄せつつカナタを見つめた。
「なぁに、カナちゃん?」
「触り方が、その。……少し、えっち、です……っ」
するりと、ツカサの手がカナタの背を撫でる。
ゾワゾワと背筋を粟立たせつつ、カナタは先ほどまでとは違う理由で頬を赤らめた。
チラチラとこちらを覗き見るカナタに気付いたツカサは、すぐさまニコリと笑う。
「うん。シたくなっちゃった」
「シた、く……っ!」
「だって、好きな子と二人きりだよ? しかも、同じベッドの上で密着中。そこでなんの劣情も抱かないほど、俺は枯れてないよ?」
もう一度顔が近付くと、ツカサは有無を言わさずにカナタへキスをした。
未だにこうした触れ合いに慣れがこないカナタは、真っ赤になりながらツカサを見つめる。
「ツカサさんって、オレと……え、えっち、するの。……好き、ですよね……っ?」
「そうだね、好きだよ。……だけど」
カナタの体がトン、と。ツカサの手によって押された。
「──俺が好きなのは【カナちゃん】だよ」
ベッドの上に押し倒されたカナタは、覆いかぶさるツカサを見上げる。
「大好きだよ、カナちゃん。こんな俺を受け入れてくれたカナちゃんが──受け止めようとしてくれているカナちゃんが、好きで好きで堪らないんだ。数分前よりもキミへの愛おしさが増していて、自分でもビックリ。どうしてカナちゃんは、俺に【好意の上限】を設けてはくれないの? このままじゃ俺、もっともっとカナちゃんに溺れちゃうよ」
「ん……っ」
「それで俺が溺れる分だけ、カナちゃんも同じ目に遭わせたくなる。……本当にカナちゃんは、困った子だね」
濡れ衣も甚だしい。思わずカナタは、そう反論をしそうになった。
しかしツカサはカナタの返答も待たずに、別の問いを投げかける。
「エッチ、今日はシちゃダメ?」
「っ! ……オレが『駄目』って言っても、やめてくれないくせに……っ」
「あはっ、それはモチロンっ。ちょっと訊いてみただけだよ」
カナタの体を布越しに撫でながら、ツカサは笑う。
「それに俺は、カナちゃんから『いいよ』って言われたい。だから、わざわざこうして訊いちゃうんだ」
まったく、悪びれた様子がない。ツカサはさも当然と言いたげな態度で、カナタに甘えていた。
そんな困った彼氏のことがどうしようもなく好きなのだから、カナタもカナタで大概ではあるが……。
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