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そして辿り着いた、ガソリンスタンド。
カナタはツカサと同様に車から降り、触ったことのない機械を見てキョロキョロと忙しなく瞳を泳がせる。
新鮮なものに興味津々な恋人を見て、ツカサはゆるりと笑った。
「画面、タッチしてみる?」
「爆発とかしないですかっ?」
「あははっ! 大丈夫だよ、しないからっ」
ツカサが指を指す部分に、カナタは指を押し付ける。
「仮に爆発するとしても、俺がカナちゃんを守るから大丈夫だよ」
「不安を煽るような発言はしないでください……っ!」
「あっははっ! カナちゃんって、俺が思っている以上に【ガソリン】に悪いイメージしかないんだねっ?」
液晶画面をタッチすると、次にすべきことがアナウンスで指示された。
お金を入れ、ポイントカードを読み込ませ、油種を選択し、ポイントの利用について回答し、ここでついに本番。
「このノズルを持ってね?」
「なっ、なんだかっ、緊張します……っ!」
「給油だけでこんなに感情が動いてくれるなんて、なんだか凄く新鮮だなぁ。おっかなびっくりなカナちゃんも可愛いね? 好きだよ、カナちゃん」
「今はっ、今はそういうの言っちゃ駄目ですっ! ちゃんとオレに給油の指示をしてくださいっ! オレ、必死なんですからっ!」
「あらら、怒られちゃった。でも可愛いから全然イヤじゃないよっ。むしろもっと叱ってほしいなぁ? ……ねぇ、もっと俺のことを注意して? 俺のダメなところ、もっといっぱい指摘して?」
「もうっ! ツカサ君っ!」
「あっははっ! ハイハイ、了解だよぉ~っ」
カナタにとっては一世一代にも見えるほど大きな出来事だ。しかし【給油】という行為に慣れしかないツカサからすると、慌てふためくカナタと同じ状況になれと言う方が難しい話だった。
すぐさまツカサは、カナタを背後から抱き締める。
「じゃあ、約束通り手取り足取り教えてあげるね?」
「えっ? あっ、あのっ、ツカサさんっ? ちっ、近いです……っ!」
「口だけで説明するより、こうして体を使って教えた方が分かり易いでしょう? カナちゃんを想っての接近であり、カナちゃんのための密着だよ?」
「それはっ、た、確かに……?」
コロッと言いくるめられてしまったカナタは、背後から密着する恋人の振る舞いにそれ以上の言及ができなかった。ツカサからすると大勝利でありながら役得でしかない状況だ。
ビクビクと委縮しているカナタを抱き締めたまま、ツカサはカナタの耳元に唇を寄せた。
「そう、しっかり握って? そのまま先端を、穴の中に入れて。……ふふっ。カナちゃんのせっかちさん。そんなに強引にしたらダメだよ? もっと、優しく……ねっ?」
「ひゃっ!」
「体が震えているね、緊張しているの? だけど、初めてでも大丈夫だよ。俺がきちんと教えてあげるから。……ん、上手だね。ホラ、見える? 根元まで入ったから、奥までいっぱい届くよ?」
「ちょっと、あの、ツカサさん……っ!」
「このまま、中に出してあげよっか? 指で、突起を押して……そうそう、上手だよ。そのまま続けて? ……そう、カナちゃんはお利口さんだね?」
「やっ、あのっ、ツカサさんってば……っ!」
「溢れないように気を付けてね? ……ウン、いいね。じゃあそのまま、中に沢山注いで──」
「──もうっ! ツカサさんっ、絶対にわざとですよねっ!」
「──えっ、なにがっ!」
耳元で官能小説を読まれているような錯覚を起こし、カナタはギャンと吠える。
当然、最愛の恋人が耳まで赤くなっている理由を、ツカサは本気で分かっていなかった。
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