262 / 289

12 : 22 *

 家に帰ると当然、カナタとツカサ以外は誰もいない。家主であるマスターもウメも、仕事中だからだ。  二人はそのままツカサの部屋へと向かい、ベッドの上で今、互いの体温を唇から感じ合っていた。 「カナちゃん、好きだよ。昨日より、もっと。今朝よりももっと、キミが好き」 「ツカサ君……っ」 「これから、二人きりのときは俺に敬語を遣わないで喋ってね? それで周りに人がいるときは、今まで通りでいてほしいな。敬語を抜いた特別なカナちゃんは、俺だけのものにしたいから」 「うん、分かった。ツカサ君がそう言うなら、そうする。……オレも、そうしたいから」  服を脱がされながら、カナタは熱に浮かされたような瞳でツカサを見上げる。  昨晩は後ろから抱かれたが、今は向かい合っているのだ。ツカサのことが好きで堪らないカナタは、その顔を見つめていたかった。  すぐにツカサは手を動かし、カナタの後孔に触れる。 「んっ、ぅ、ぁあ……ッ」 「カナちゃんのナカ、時間が経つとキツイね。……痛くない?」 「だい、じょうぶ……っ。だから、焦らすのはやだ……っ」 「ヤッパリ、今日のカナちゃんは積極的だね。双方の親に挨拶したし、これで憂いなく結婚できるから、嬉しいのかな。……ちなみに、俺は凄く嬉しいよ」  嘘は、言っていないのだろう。ツカサは幸福そうに笑いながら、徐々に乱れていくカナタを眺めていた。 「俺たちが【恋人】でいられるのは、あと少しだね。もうすぐ、俺たちは結婚して【家族】になるんだ。……幸せだなぁ、本当に」 「あっ、んぅ……っ!」 「そう考えると、なんだかいつもと行為に対する気持ちが変わってくる気がするよ。不思議と今日は、いつもよりもっと特別な気持ち。カナちゃんも同じだと嬉しいな」  カナタの後孔を解しながら、ツカサは静かに言葉を紡ぐ。 「愛しているよ、カナちゃん。これから先もずっと、俺はカナちゃんだけを愛してる」 「ツカサ、くん……っ」  指を引き抜き、ツカサは隆起した自身の逸物をカナタの後孔に押し付ける。 「ドキドキする。……なんでだろうね、初めてってワケじゃないのに」 「オレも……オレも、いつもよりドキドキする……っ」 「そうなの? だったら、このドキドキもステキなもののように感じるよ。……もとから、不快ではなかったしね」 「あ、ぁ……あ、ん、ッ」  押し付けられていた逸物の先端が、ゆっくりとカナタの内側へと挿入されていく。  愛する人に愛され、心だけではなく体も満たされていく感覚。カナタは堪らず甘い声を漏らし、ツカサの背に手を回した。 「今、初めてシた時のことを思い出したよ。カナちゃん、あの時も可愛かったなぁ」 「初めての、時は……ツカサ君、怖かった……っ」 「前もそう言ってたね。でも、仕方ないよ。だって、カナちゃんのことが凄く特別だったから『早く俺だけの男の子にしたい』って、焦っちゃったんだもん」  ケロッとした様子で答えるツカサは、全くもって申し訳なさがなさそうだ。 「でも、結果的に俺は間違えていなかった。こうして今、俺の腕の中にカナちゃんがいる。それが、過去の俺を肯定する決定的な証拠だよ」 「そんなの、結果論だもん……。オレ、本当に怖かったんだよ……っ?」 「今も?」  至近距離に、ツカサの顔がある。 「今も、俺は怖い?」  暗い瞳には、カナタの顔が映し出されていた。  ツカサの瞳に映るカナタの表情は、とても……。 「……ずる、い。今のツカサ君、オレが『怖くない』って言うのを分かっているような顔だよ……っ」  とても、怯えているようには見えなかった。

ともだちにシェアしよう!