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最終章 : 8

 カナタを、膝の上に座らせる。まるでそれが目的だったのか、ツカサはご満悦だ。 「カナちゃんは軽いね。それに、近くで見てもヤッパリ可愛い。大好きだよ、俺だけのカナちゃんっ」 「ツカサ君、あのっ。服の上からだけど、そのっ、手が……っ」 「カナちゃんのお尻、小さいねぇ? 仮に大きかったとしても、俺はカナちゃんのお尻なら大好きだけど」 「わっ、わわっ! ちょっと、あのっ! へっ、変な触り方しないでっ!」 「どうして? 誰に見られているわけでもないし、別にいいでしょ?」  まるで証拠とでも言わんばかりに、ツカサはわざとらしくカナタの後ろに目線を向ける。その視線がむしろ恥ずかしく、カナタはなにも言えずに顔を赤らめてしまう。  困った様子で固まったカナタを抱き締めたまま、ツカサはカナタを見上げた。 「ようやくカナちゃんと正式な家族になれたわけだし、次は俺たちの家族に報告しなくちゃねっ。カナちゃんのご両親にもう一度ご挨拶に行って、もう一度あの人にも挨拶して……。どうしよう、カナちゃん? まだまだ二人でやらなくちゃいけないこと、沢山あるね?」 「困ったような言い方なのに、なんだかツカサ君、すごく嬉しそうだね?」 「だって嬉しいからねっ」  カナタの腰に腕を回し、ツカサは微笑む。 「世界で一番幸せな旦那さんになれただけでも嬉しいのに、愛おしくて堪らないお嫁さんと【二人で】やらなくちゃいけないことがある。俺たちは家族どころか、まるで半身みたいだよね。そんなの、嬉しいに決まってるでしょ?」  唐突に大規模な話となったが、ツカサは大袈裟な表現を用いているわけでもなく、本気でそう思っているようだ。 「大好きだよ」  笑うツカサを見ていると、無粋なツッコミをしようとは思えなくなる。カナタは「オレも大好き」と言ってから、ゆっくりと瞳を閉じた。  カナタは、ツカサからのキスを待っている。頬が赤らんでいるところを見ると、まだまだツカサとの触れ合いに緊張やときめきが抜けていないらしい。  ウブなカナタを見て微笑んだ後、ツカサは求められるがままにキスを贈った。触れるだけの、優しいキスを。  開いた瞳に、互いの顔が映る。至近距離で見つめ合いながら、ツカサは突然ハッとした様子でカナタを見た。 「あっ。お嫁さんなカナちゃんのファーストキス、貰っちゃったっ」 「それを言うなら、オレだって旦那さんなツカサ君のファーストキス、貰ったもん」 「そっか、それもそうだねっ。あははっ、嬉しいなぁ」 「なにそれっ? ……ふふっ」  ツカサは、こんなにも無邪気に笑う男だっただろうか。同じく無邪気に笑いながら、カナタはそんなことを考えた。  少し前なら、自分自身でもこんな笑顔を浮かべられるとは思っていなかっただろう。それほどまでにカナタは変わって、ツカサも変わったのだ。  ……そしてきっと、これからも二人は互いに影響されて、変わっていくのだろう。  そんな変化が、これからお互いにどう影響していくのか。それはまだ、二人にも分からない未来だ。  ……だが、ひとつだけ。 「カナちゃん。もう一回、キスしてもいい?」 「……駄目。今度は、オレからキスしたい」 「なにそれ、可愛すぎ。じゃあ、お願いします」 「うん。……ツカサ君、大好きだよ」 「俺もだよ、カナちゃん。俺も、カナちゃんが大好き」  隣に、好きな人がいてくれる。それが不変であるのならば、どんな未来であっても二人は幸せだろう。  カナタも、ツカサも。それだけは不思議と確信しながら、もう一度甘いキスを交わした。 最終章【そんなに可愛がらないで】 了

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