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② : 2

 一方的な冷戦体勢を止めたカナタは、気を取り直してツカサを見上げた。 「……本当に、なんでも教えてくれますか?」 「モチロン。初恋の人だって教えてあげる。……俺にとって最初で最後の好きな人は、カナちゃんだけだよ。今日も大好きだし、昨日も明日もその先も……これから一生、骨の髄まで愛しているよ、カナちゃん」 「そっ、ういうことを言われると……ドキドキして、言葉が出てきません……っ」 「あはっ! 可愛い~っ!」  さらに強い抱擁が送られ、カナタは小さく呻く。  しかし、このままではいつまで経ってもツカサのペースだ。カナタはツカサの胸を押し返し、もう一度顔を上げた。 「ツカサさん、話が脱線しちゃいますっ」 「わぁ~っ、むくれるカナちゃんも可愛いなぁ~っ」 「オレの話を聴いてくださいっ!」 「いつだって俺の耳はカナちゃんの声を求めているよ? だから、もっと俺だけに囁いて? できれば、甘い言葉か愛の言葉がいいなぁ」 「そういう意味じゃなくてですね……っ!」  トンと胸を叩くと、ようやくツカサは真剣に話を聴く気になったらしい。……ツカサ本人としては、いつだってカナタから振られる話題に百パーセントの対応をしているつもりだが。 「脱線させちゃってごめんね? ……それで、なにを訊きたいのかな?」  唐突に見せる、年上らしい余裕。  時にはカナタ関連で取り乱し、周囲やカナタ自身にも危害を加える危険な男。そんな狂気を、今のツカサからは一切感じられない。 「一応言っておくけど、別れ話なんかはイヤだよ? ココはカナちゃんの部屋だから、手に馴染む道具がないんだ。俺、カナちゃんに痛い思いはさせたくないよ」  ……前言撤回。ツカサは、いつだってツカサだ。  急にほの暗い方向性へと変わりつつある雰囲気を、カナタは【本当にしたい話題】を使ってなんとか舵を切る。 「こんなこと、大好きなツカサさん相手じゃないと訊けないです。……と言うか、ツカサさん以外とはできない話、ですから……っ」  言葉を区切った後、カナタはそっと上目遣いを送った。 「──キスって、どうやったら上手にできますか?」  まるで、飛び道具のような言葉と共に。  気恥ずかしそうに視線を送る恋人を見下ろして、ツカサは両目をパチパチと数回だけ瞬かせた。  ツカサからすると、あまりにも突飛な質問だ。話の流れでいくのなら、下着の色や好きなプレイ内容あたりが妥当だと思っていたのだから。……これが不思議と、本心から本気で。  だが、他でもない最愛の恋人が投げた問いだ。ツカサは目を丸くしつつ、答えを返す。 「……実践あるのみ、じゃないかな?」  返ってきた答えを、カナタは真剣に受け止めた。  だからこそ、流れとしては妥当すぎる相槌を打ったのだ。 「──じゃあ、練習させてください。……ツカサさんの、唇で」  まさか、恥ずかしがり屋のカナタから『唇』という単語が出てくるとは。積極的なように見えて耳まで赤くなっているカナタの姿に、ツカサの胸はキュンと締め付けられた。 「……ちょっと、予想外の展開。ドキドキして、言葉が出てこないかも」 「それ、さっきのオレのセリフじゃないですか……」 「可愛いでしょ?」 「……ツカサさんは、可愛いけどカッコいい人です」  真っ赤な恋人が、あまりにもいじらしい。ツカサはカナタを強く抱き締めて、そのまま耳元で囁く。 「ありがとう。カナちゃんはカッコ良くて、それでいてとっても可愛い男の子だよ。……愛してるよ、俺だけのカナちゃん」 「あっ、ちょっと……っ」  このまま、ベッドに連れて行きたい。そんなツカサの考えに気付いたカナタは、腰を撫でるツカサの手を一度、ぺちっと優しく叩いたのだった。

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