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② : 3

 レッツゴー、ベッド。ツカサの煩悩は正直だ。  しかし、カナタの思いは違う。決してセックスをしたくないわけではないが、今はそうした展開に進みたくないのだ。  なぜなら……。 「答え、まだ聴いていません。ツカサさんは、なんでも答えるって言ってくれましたよね?」  勇気を出したというのに、ツカサのペースに呑まれていては意味がない。  カナタはキスレベルを向上させて、普段のカナタが抱いているような幸福感をツカサに与えたいのだ。  するとすぐに、ツカサはカナタと向き合った。 「答えなんて決まっているじゃない。俺には拒否する理由なんてないんだからさっ」  そう言うや否や、ツカサはカナタのことをヒョイと抱き上げる。  そのままツカサはベッドに座り、抱き上げていたカナタを自身の膝の上に座らせた。 「練習も本番も、カナちゃんのキスは全部俺だけのものだよ」  微笑みを浮かべた後、ツカサはまぶたを閉じる。 「さぁ、いつでもどうぞ? 俺は逃げも隠れもしないよ」  ツカサはきっと、カナタが望むことを叶えようとしているだけだ。カナタが【キスの練習】を望んだから、そう振る舞っているだけなのだろう。  しかしどうしても、カナタとしては揶揄われている気がしてならない。これから恋人がキスをするというのに、ツカサの態度はあまりにも堂々としていた。  ……だが、ここで照れていてはなにも変わらない。 「ツカサさん、大好きです」  囁いた後、カナタはツカサの頬に自身の手を添えた。  それから顔を傾かせ、カナタはツカサの唇にキスを落とす。  始めは、警戒を解かせるようなツンと接触する程度のキス。そして次に、遠慮がちに唇の表面を舐めた。  すぐにカナタは、ツカサの口腔に舌を差し入れる。『好き』という気持ちを、ツカサに直接知ってもらいたくなったからだ。 「んっ、ん……っ」  ツカサと何度も交わしたキスのおかげで、今のカナタは【キス】に対して全くの無知ではなくなった。  甘い吐息を漏らしつつも、きちんと甘いキスを贈れている。……はずだと、カナタは思いたかった。 「ぁ、む……っ。……んっ」  酸素を求めるために、一瞬だけ唇を離す。しかしすぐに、カナタはツカサの下唇を優しく唇で食んだ。  意外なことに、ツカサからのアクションは一切ナシだった。ツカサはカナタのオーダー通り、練習台としてジッとしているらしい。  そんなカナタ想いの姿に、すぐさまカナタの胸は高鳴る。いつだってカナタの気持ちを考えてくれているツカサのことを、カナタは好きになってしまったのだから……。  しばらく、カナタは最愛の人の唇を堪能する。表面だけではなく、温かな内側。普段から想いを告げてくれる舌と、忘れてはいないと言いたげに歯も……。  やがて、今までカナタが贈ったキスの中で最長時間を軽く更新した後。 「……どう、でしたか?」  カナタは顔を真っ赤にしたまま、ツカサからの評価を待った。

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