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③ : 2

 カナタからの愛を受けて、ツカサは笑顔を──。 「……カナちゃんは、俺への好意を忘れちゃうのかな? 俺はいつだってカナちゃんへの愛は惜しみ無く伝えているし、それでも足りないくらいなのになぁ……」  浮かべるどころか、どことなく悲しそうな顔をしたではないか。  しょんぼりと肩を落とすツカサを見て、カナタは考える。 「えっ? それは、どういう──……あっ!」  そして、すぐに合点。カナタが不意を衝くために発した『言い忘れ』という単語に、ツカサは不満を抱いてしまったらしい。 「ちっ、違うよっ? 今のは、ツカサ君をビックリさせようとして──」 「カナちゃん」 「──んむっ」  ふにっと、弁明を紡ぐカナタの唇をツカサの冷えた指が押した。 「ダメだよ、カナちゃん。普通の声量で喋ったら、カナちゃんの貴重なタメ口と『ツカサ君』呼びが他の人に聞こえちゃう」 「っ!」 「それとも、こうして俺に触れてほしくてわざとやったのかな? カナちゃんはいじらしいね? そんなちょっと小悪魔ちゃんなところも、変わらず可愛いよ? 俺の奥さんはホント、いつだって可愛くて困っちゃうね」 「あっ、あのっ、あの──」 「──お主ら、せめてもう少し分からないようにサボってくれんかのう」  ドン、と。ツカサとカナタの間にわざとらしく、マスターが出来立ての料理を置く。  マスターの声を聞いて、カナタはハッとする。自分で蒔いた種とはいえ、少々ツカサのペースに呑まれすぎていた、と。  カナタは慌てて謝罪の言葉を口にしようとしたが、先に口を開いてしまったのは悲しきかな、ツカサだ。 「は? サボってないよ。むしろ、俺たちの本業はこっちなんだけど?」 「愛を語らうだけで給金が発生するわけないじゃろが! いいから働け、馬鹿者共!」 「『バカ』? それって、カナちゃんにも言ってるの? なに? ヤッパリ、マスターは【ウミガメのスープ】をこの店の定番メニューにしたいってこと? それなら先ずは試作しなくちゃねぇ?」 「ほぎゃァアッ! 正論を言ったワシがなぜッ、なぜ刃物を向けられているんじゃァアッ!」  すぐに始まる、生殺与奪権の強奪。ツカサはマスターの胸倉を掴み、暗い瞳で脅しを始めた。  ……その様子を見て。 「どう? 今日もうちの店、平和でしょ?」  カップルと思しき二人組の客と談笑をしていたリンが、のほほんとした様子で笑っていた。ついでに、二人組の客だけではなく他の客も『平和だなぁ』という顔で、ツカサとマスターのやり取りを眺めている。  完全に、感覚が麻痺をしているような。カナタは急いでツカサの袖を引き、上目遣いを送った。 「ツ、ツカサさんっ! 料理っ、料理を作ってくださいっ!」 「うん、モチロン。コイツを使って、今から新作──」 「そうじゃなくてっ! オレがさっき言ったオーダーの方ですっ!」 「──なんだっけ。【マスターの丸焼き】だっけ?」 「「──違いますッ!」」  生かすことに必死なカナタと、生きることに必死なマスターの同調。さすがのツカサも、これには思うことがあるらしい。どうやら、マスターを使って調理をすることは諦めてくれたようだ。 「まぁ、いいか。……ねぇ、カナちゃん? このバカが言ってたさっきの失言はムシしていいからね、忘れていいからね? そもそもコイツ──マスターは、この店で笑顔と賄賂を配るので忙しいからさ。今日に限らず、これからも言動全部、放っておいていいからね? ……ねっ? 約束だよ、俺だけの可愛いカナちゃん?」 「誰がいつそんなことをしたと言うんじゃッ! ワシがお客様に配っているのは笑顔と幸せじゃッ!」 「ははっ、ウケる」 「せめてワシを見んかいッ、この馬鹿弟子──ギャァアッ! 握力が強まったァアッ! カナタッ、カナタァアッ!」  依然として、マスターの胸倉を掴んだままではあったが。  

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