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第3話 蹂 躙

秀貴は重たげに瞼を開いた。  ゆっくりと部屋を見渡してみる。壁には何かをぶつけたような痕がいくつも残り、秀貴は胸を押し潰されそうになった。  飾ってあった学生時代のトロフィー、部屋中に散乱した写真立て、これまで大切にしてきた思い出の断片が、まるで牙を剥くように秀貴を責める。 (僕はどうして……?)  記憶が無いわけではなかった。  抑えきれない哀しみと怒りが秀貴の中からほとばしり出てしまったのだ。  はっとしてベッドを振り返る。その傍らに置かれた椅子に、誰かが寄り掛かかり目を瞑っていた。 「佐久間……さん?」 「目が覚めたか?」  男は眠ってはいなかった。そして同時に秀貴は自分が佐久間にした酷い仕打ちを思い出した。 「佐久間さん、ごめんなさい。僕は佐久間さんに酷いことをしてしまいました……」  よく見ると佐久間はスーツを着崩し、白いワイシャツにはコーヒーのシミの他に、赤いシミが点々と残っていた。 「佐久間さん、血が……?」 「気にするほどのことじゃない」  秀貴は酷く後ろめたさを覚え、何処かへ消えてしまいたいと思った。 「僕は……出かけなくっちゃ」 「練習か? 今日は休んだらどうだ?」  なぜ佐久間が今日は練習日だと知っているのか、秀貴は戸惑っていた。 (僕が自分で話したのだろうか? まさか) 「どうしても出掛けたいなら、俺が送って行く」 「いえ、結構です。一人で行けます」  むしろ一人になりたい。秀貴はそう思っていた。 「わかった。ただ俺にも仕事がある。君を監視するという仕事がな」  秀貴はつい頭に血が上りそうになる。 「もう俺を見張る必要なんかないでしょ。全て終わったんだ。もう遅いんだから!」  だが結局のところ秀貴は無理やり車に押し込まれ、しぶしぶ佐久間の付き添いを認めざるを得なかった。 道場の前に着くと、秀貴は佐久間にしばらくはどこかへ行っていて欲しいと頼んで車を降りた。  新横浜にある道場にはまだ誰もいなかった。 秀貴はリングに上がり、黙々とマットの雑巾掛けをした。  秀貴は自分があの会議場にいなかったことを、単に父親に反発して時間を遅らせてしまうことばかりを考えていた自分を責めていた。  もし父親の言う通りに会場にいれば、自分一人が取り残されることはなかったかも知れない。 秀貴は今さらながら、後悔の思いに叩きのめされた。 いきなり道場の扉が開き、先輩レスラーの門脇が入ってきた。 「子虎か? お前、もう大丈夫なのか?」 「門脇さん。おはようございます。あ、ええ僕は大丈夫です」 「そうか。大変だったな」  秀貴は門脇の言葉に安堵し、同時に哀しみに抗いながらマットを拭く手に力を込めた。  ふと秀貴が振り返ると門脇がマットの上に上がっていた。 「試合運びのリハーサルでもやるか?」 門脇は秀貴の肩に手を置いて話しかけた。 「いいんですか?」 「どうせ今日は俺とお前だけだ。皆んな明後日の公民館の下見を兼ねて出払ってる。夕方まで戻らない」  そう言われて秀貴は思い出した。参加できるなら九時までに道場に集まるよう言われていたことを。 「そうでしたね」  門脇は軽いストレッチを済ませると、秀貴にリングに上がるように指示を出した。 「軽くスパーリングから始めるか。明後日のマッチメークは俺と対戦だ。お互いを知ることは大事なことだ」  そうだ。秀貴は明後日の試合で門脇と対戦する予定なのだ。 「よろしくお願いします!」  秀貴は両腕を前に構え、腰を落として重心を低くした。  お互いの肩に腕を置き、がっぷりと組み合った。先に仕掛けてきたのは門脇だった。いきなり姿勢を低くして腹にタックルを受けた。秀貴は思わず息が詰まり、涙を滲ませた。  だが秀貴は態勢を整えて相手の胸元に水平打ちを食らわせた。  門脇は大げさに苦しんで見せ、ロープに逃れた。秀貴はそのままタックルをお見舞いしようと突進して、肩透かしを食らった。秀貴の後ろに回った門脇が逞しい両腕を秀貴の首に絡め、スリーパーホールドを掛けてきた。 (く……苦しい!)  門脇の身体つきは秀貴よりふた周りほども大きい。太い腕をした門脇に捕まったら逃れるのは至難の技だ。 試合運びとしてはここで一旦お互いに身体を離し、投げ技の掛け合いに持ち込む段取りになっていた。だが門脇は秀貴の首に回した腕を解かなかった。 「門脇さん……く、苦しいです!」 「このまま締め落としてみるか? それとも大人しく俺の言う通りにするか?」  門脇の瞳はギラギラと光り、欲望を口元から溢れさせた。 「お前は可愛いいぜ。思わず抱きたくなる。今までずっと我慢してきたんだ。今日くらい相手をしてくれてもいいだろう?」  秀貴は背筋に冷たいものを感じた。この力にはとても抗えそうにない。だからと言ってこんな男のいいようにされたくはない。秀貴は一計を案じ、足をリングから浮かせてそのまま自分で尻餅をつく態勢に持ち込もうとした。スリーパーホールドから逃れるための常套手段だ。だが力の差があり過ぎた。 「ふん、ポセイドンでも仕掛ける気か? 俺には通用しないぞ。そっちがその気ならこのまま締め上げてやる」  頸動脈を締め上げられ、秀貴は意識が朦朧とし、身体から力が抜けていった。 秀貴にはほんの一瞬のことだと感じられた。だがそれは秀貴の意識の繋がりの中の時間に過ぎなかった。実際の時間はもっと経過していたのだ。  秀貴は上半身を裸にされ、マットの上にうつ伏せに押さえつけられていた。  左手は門脇の腕で背中に回され、体全体に門脇の体重が乗せられていた。 「気がついたか? さあどうする」  秀貴は門脇の身体を跳ねのけようと試みるが、力の差は歴然としていた。秀貴は完全に門脇の剛腕に屈していた。  すると門脇の右手が秀貴のトレーニングパンツに掛けられ、下着ごと一気に膝下までずり下ろされた。 「や、やめろ!」 「何だ、まだ抵抗する元気が残っていたのか? もう観念したのかと思っていたぜ」  門脇は秀貴の髪の毛を掴み、頭を持ち上げると、ぐっと自分の顔に引き寄せた。荒い息が顔にかかる。密着した秀貴のしなやかな肢体に、熱く膨らみを増した門脇のペニスが押し付けられた。それは見たこともないほど欲情に駆られた男の素顔だった。 「どうだ、なかなかのマラだろう? こいつですぐに気持ちよくしてやる。暴れると痛い目に合うぜ?」  門脇の太い指が秀貴の柔らかな尻を撫で回す。 「この尻に前から興味があったんだ。きめの細かい筋肉が充分についてやがる。憎らしいくらいに俺を煽りやがって。じっくりと可愛がってやるからな」  門脇の指が秀貴のこんもりとした柔らかな双丘を這う。鳥肌が立つような感触に、秀貴は思わず声を上げる。 「やめろ! もっと大きな声を出すぞ!」 「ほう。男に組み敷かれた淫らな格好をどこの誰に見せたいんだ? お前にはそういう願望でもあるのか?」  秀貴は黙り込んでしまった。悔しいけれど、確かにこんな姿を誰にも見られたくはなかった。  やがて内ももの付け根の辺りにぬるりとした感触を覚え、目を見開いた。次の瞬間、秀貴が恐れていたことが現実のものになった。 「ぐぅああーっつ!」 「おいおい近所中が集まってきちまうぞ?」  門脇はそう言うと、ずり下げた秀貴のトレーニングパンツを掴むと、端を口に押し込んだ。  尻の穴に門脇の指が差し込まれた。秀貴は再び声を上げようとしたが、口に突っ込まれた布の間から息が漏れる程度にしか聞こえなかった。  門脇の指は秀貴の直腸の内側を探るように抉った。指は二本に増え、肛門が大きく拡げられていく。卑猥な音を立てながら秀貴の直腸の襞を擦り上げていく。秀貴の両目から、痛みと屈辱のため涙が零れた。 「なんだ、尻を持ち上げたりして。気持ちいいのか? そうか。まだ足りないか。なら今度は極太の俺のマラをぶち込んでやるぜ」  まるでそれは悪魔の宣言だった。 秀貴は必死に身体を捩って悪魔から逃れようとした。  だが無駄な抵抗だった。押さえつけられた左腕は痺れて既に感覚さえなかった。何をどうすればここから逃げ出せるか、秀貴の頭にはそれさえも思い浮かばなかった。 「大人しくしていればすぐに気持ちよくなる。だが抵抗すれば小さな尻の穴が裂けてしまうぞ」  言い終わらないうちに、門脇は自分の体重を再び秀貴の背中に乗せてきた。内腿に沿って、熱くいきり勃つ凶器があてがわれた。 次の瞬間、秀貴の肛門に激痛が走った。メリメリと音がしそうなほどの衝撃だった。入り口の痛みはすぐに腹の中へと移動した。  まるで下腹部にある内臓の全てが鳩尾の辺りまで押し上げられていくあまりの痛みに、秀貴の意識は飛んでしまいそうだった。身体を捩って逃げようとすると、深く埋め込まれた肉の凶器が腹の中のあちこちに当たる。その苦しさに、秀貴は思わず嗚咽を漏らす。 「下手に動けば辛いのはお前の方だろう? まだ根元までは入っていないんだぜ? どうだ、一気に突き入れられたいか?」 息ができない。大きく息を吸い込もうとする度に、熱い怒張した肉棒は少しづつ深く突き入れられる。秀貴は歯を食いしばった。呼吸する権利まで奪われたような長い時間に思えた。額からは粘り気のある脂汗が止めどなく流れ落ちた。 「じっくりと可愛がってやる。すぐに気持ちよくなるからじっとしていろ」  また悪魔が呪われた呪文を唱えた。 「いいか、お前の腹の中を俺のマラで掻き回してやるからな。なかなかのブツだろ? 女では受けきれんがな、男のここは深いからな。まあ俺のマラじゃ、気持ちいいはずの前立腺は通り過ぎてしまうがな。ほらどうだ、胃袋を押し上げてやろうか?」 「ぐうぅっっ……! ぐうぁぁぁ!」  ヌチャヌチャと腸を引き摺られ、全身の表皮が粟立つような不快な感覚と、胃まで突き上げてくる苦しさに秀貴は何度もえずいた。だが昨日から何も口にしていなかった胃からは、苦い胃液だけが塞がれた口の隙間から僅かに滲み出るだけだった。 「いい具合のケツだな。何なら俺の彼女にしてやってもいいんだぜ? 一晩中でもこうして啼かせてやるからな」  秀貴はできるだけ身体から力を抜くことだけを考えていた。どうせ嵐はすぐに収まる。今できることは目を閉じて痛みに耐えることだけだと。  だが悪魔の僥倖は留まることを知らなかった。秀貴は太く長い男根を突き入れられたまま、身体を横向きにされた。すぐに門脇の右手は秀貴のペニスを握った。それまでは力無くうずくまっていたものが、ゴツゴツした太い指に弄ばれ、次第に膨らみ始めた。 「そうか、気持ちいいのか? もう先走りでぐちょぐちょだぞ?」  秀貴は恥ずかしさのあまりこのまま死んでしまいたいと思った。化け物のようなペニスで尻を貫ぬかれ、ケダモノのような手でペニスを弄ばれ、秀貴は勃起していた。  次第に門脇の腰の動きが激しさを増してきた。自分の尻の穴がグチョグチョと卑猥な音を立てているのがわかる。直腸よりもずっと奥まで貫かれていることも、自分のペニスから信じられないほどの先走りが溢れていることも。  やがて秀貴は堪えきれずに射精した。門脇は自分の指にかかった秀貴の白濁の雫を舐めとり、にやりと笑った。  そしてまた新たな地獄が始まった。  門脇は秀貴を仰向けにし、自分の体重をかけるようにして秀貴のアナルを目がけてペニスを突き入れると、今度は一気に引き抜きながら秀貴の顔を覗き込む。秀貴は身体の中を棒で掻き回されるような感覚に気が変になりそうだった。門脇は抜き差しを何度も何度も繰り返し、無心で突きまくった。  これ以上この悪魔を喜ばせたくはない。秀貴はじっと声を殺して耐えた。やがて耳を覆いたくなるような唸り声と共に、門脇は秀貴の中に欲望の奔流をぶち撒けた。 それでも門脇のペニスは萎える気配がなかった。秀貴は門脇の脈動に呼応するかのように再び勃起していた。くの字に曲げられた自分の顔のすぐそばにそれは見えていた。力を取り戻した秀貴のペニスは、先っぽからダラダラと透明な液体を溢れさせていた。  尻の穴から鳩尾の辺りまでを抉るような痛みは、秀貴の知らない別のものへと変わり始めていた。  それでも秀貴は悔しかった。試合で痛めつけられることは我慢できる。だがこれは違う。これは自分への冒涜(ぼうとく)であり、蹂躙(じゅうりん)だ。  秀貴は悔し涙を堪えることが出来なかった。 「お前、なかなか上達が早いな。ケツの穴がヒクヒクしているぜ? プロレスだけかと思っていたら、セックスの上達も早かったな。お前のココは男の味を覚えてしまったんだよ」  秀貴は門脇に反抗するだけの体力も、気力さえも奪われていた。 「俺は先に帰るぞ。なかなかよかったぜ、かわい子ちゃん」  秀貴の頭の中は空白に支配されていた。

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