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第7話 月明かりに照らされて
秀貴の頭が僅かにベッドから浮き上がり、佐久間の唇を吸った。その瞬間に佐久間は理解した。秀貴は今、自分を求めているのだと。
佐久間は秀貴の身体に覆い被さり、今度は自分から秀貴の唇を強く奪った。
小さく喘ぐような吐息が秀樹の唇の端から漏れた。佐久間は秀貴から身体を離し、シャツを乱暴に脱ぎ捨てた。月明かりに照らしだされた佐久間の肉体はまるでギリシャ神話に出てくる彫刻のようだと秀貴は思った。
佐久間の胸が秀貴の胸に静かに重ねられていく。再び重ね合わされた互いの唇は驚くほど敏感になっていた。ただ唇を重ね合うだけで、どちらの口元からも軽い喘ぎが漏れた。いきなり秀貴が体を入れ替えるように佐久間の上になった。そして二人はお互いの股間に潜んでいた塊が、大きく息づきながら屹立している事を知った。その事実が、二人の間に立ちはだかっていた見えない壁を一瞬で打ち壊した。
「秀貴!」
「佐久間……さん……!」
「龍一と呼んでいい」
秀貴は戸惑いを見せたが、それも一瞬のことだった。
「龍一さん!」
佐久間は秀貴の肩を引き寄せ、首筋から胸元にかけて口づけの雨を降らせた。秀貴は佐久間のベルトに手を掛け、器用にそれを外した。佐久間が僅かに腰を浮かすと、秀貴は佐久間のスラックスを下着ごと膝下あたりまで下げた。佐久間のペニスは月光に照らされ、ベッドに長い影を落としながらビクンビクンと脈打っている。
秀貴はこんな事を自分からするのは初めてだった。だがどうすべきなのかは本能が知らせている。秀貴は口元を大きく開き、佐久間のペニスを口に含んだ。おそらくはゆうに二十センチを超えて、いやもっとありそうに見える。だが加減までは秀貴が知る由もなく、喉の奥まで咥えこもうとして息を詰まらせ、何度も咳き込んだ。
「秀貴、慌てるな。ゆっくりでいい」
佐久間の言葉に秀貴の硬く膨らんだペニスが、鍛えられた自分自身の腹を何度も打ちつける。口淫を受けている間も、佐久間は長くてしなやかな指を、秀貴の肩や胸元にゆっくりと這わせていく。その指が乳首に触れた瞬間、秀貴は佐久間のペニスを口に咥えたままビクンと軽い痙攣をした。
(この子は全身が性感帯のように敏感だな……俺の好みだ)
男同士のセックスの場合、ウケの反応の良し悪しは二人の関係性をも左右する。タチはウケの反応を見ながらセックスをコントロールするようになり、お互いの存在価値をも決めてしまうのだ。番いとしての存在意義を左右するのも、ウケの質によるところが大きいと言われる所以である。
佐久間は秀貴の肩を掴み、彼の身体を下に組み敷くと乳首を舌で転がすように愛撫した。秀貴の口から漏れる声が生理的な反応から、次第に官能的な喘ぎ声に変化し始めていた。
佐久間のペニスは既に我慢の限界に達しようとしていた。
(この俺が我慢しきれない程に興奮させられるとは。大した奴だ、お前は)
微かな笑みを浮かべた佐久間は、同様に熱り勃つ秀貴のペニスにキスをし、口の中に含んだ。秀貴は背中を仰け反らせ、喘ぎ声が一段と大きくなる。
そっと湿らせた右手の中指を秀貴の後門の周りに這わせる。反応は……良いようだ。あるいはそこにトラウマを抱え込んではいないかと心配もしたが、今の秀貴は佐久間を受け入れる事だけを欲しているように思えた。
「秀貴、怖くはないか?」
「はい。僕は、僕は……」
消え入りそうに声がトーンダウンしていく。
「それじゃ、俺が準備をしてやる。バスルームへ行こう」
「あの……準備は自分で済ませました。このまま……龍一さんのものにしてください」
秀貴の声は微かに震えていた。健気だ、と佐久間は思った。
自分を待ちながら、そんなことまで考えて準備をしていたのかと思うと、目の前で薄っすらと両目に涙を溜めている秀貴が愛おしく思えて仕方なかった。
まだ男のペニスをアナルに挿入されたことのない者ならば、個人差はあるが、普通ならS状状腸の入り口は右奥の位置にあるはずだ。そのために初心者は直腸を抜け、S状結腸へと進入するペニスに押し拡げられて痛がる。
いわゆる奥に当たるというのは直腸の終わり、つまり骨盤の中の仙骨あたりに衝撃を感じるのだが、S状結腸の入り口を突かれて感じる感覚は全く違うものらしい。
最初はそこを抜ける時には強烈な痛みがあるが、経験を積んでいけばそれが失神するほどの快感に繋がっていくのだそうだ。
だが誰もがそうではない。S状結腸の入り口がある程度拡がってしまえばその快感も次第に慣れ、やがて鈍感になる。
(こいつは教え込めば上達が早いかも知れん)
佐久間は自分の指にそっとローションを垂らし、秀貴の反応の良い場所へと沈めていった。
「うあぁぁぁ……くっっ」
必死にその異物感に耐えようとする秀貴の顔が愛おしかった。歯を食いしばり、背中を仰け反らせながらも佐久間の侵入を我慢しようとする決意に、佐久間は欲情を駆り立てられた。
「秀貴、もう我慢できん。挿れてもいいか?」
秀貴は顎を天井に向けたまま、必死に頷こうとしていた。その線の細い顎から首筋へと伝って落ちる汗がキラキラと光る。瞳は閉じたまま、何かを伝えようとする口はただ微かに震えを伝えてくる。
佐久間はその口をそっと自分の口で塞いだ。まるで答えを見つけたと言わんばかりに、秀貴の口が佐久間を求め、激しく吸い付いてくる。こんな愛おしさを感じながら他人の唇を吸ったことがあっただろうか。佐久間は愛おしさ以上の、もっと大きな感情が自分の中に生まれていることに気付いた。
(俺は……こいつを守ってやりたい。どんな事があろうとも秀貴の事を)
それは佐久間にとって初めて抱く感情だったのかも知れない。
「龍一さん……僕は、僕は汚くない? こんなことをする僕は穢れている?」
「穢れてなんかいないよ、秀貴。今のお前は俺にとって世界で一番美しくて、純粋だ」
「本当? 本当に僕は穢れて……」
佐久間は再び口で秀貴の口を塞いだ。
(もういい。もう何も言うな秀貴。俺たちは一つになる。今から、そして一生)
佐久間は秀貴の膝裏を掴むと優しく持ち上げた。秀貴の瞳がカッと見開いた。だが佐久間の顔を確認するとゆっくりと瞳を閉じた。口元は安心したように小さな笑みを浮かべていた。
秀貴の後門にペニスの先を充てがったまま秀貴の呼吸を確認する。
「秀貴、ゆっくり深呼吸をしろ。いいか、挿れるぞ」
秀貴はコクリと頷いた。
秀貴が大きく息を吸う。まだだ。今度はゆっくりと息を吐き出す。
今だ。一気にカリの張った亀頭を直腸の中に滑り込ませる。秀貴が怯えて呼吸を止める。同時に佐久間も動きを止める。
「さあ、もう一度深呼吸をするんだ」
秀貴の閉じた瞳に浮かんだ涙は、月の光を反射して金色に輝いていた。
「秀貴、綺麗だ」
佐久間の腕を掴んでいる秀貴の両手に力がこもる。それは拒否の合図ではなく佐久間を求める精一杯の仕草だった。
時間をかけてゆっくりと挿入された佐久間のペニスは違和感を感じていた。
(何だ、この蠕動のような蠢きは? 普通ならば入り口の括約筋を自分の意思で動かすことはできるだろう。だがこの動きは奥の方から伝わってくるじゃないか? まるで俺のペニスを中へ引き込もうとしているようだ)
秀貴は無意識なのかも知れない。秀貴の額や首筋、胸板からは大量の汗が噴き出している。あるいは脂汗かも知れない。なのに秀貴の直腸は佐久間を中へ中へと導こうとしているように思える。
(鍛え抜いた腹筋のせいかも知れないな。直腸やS状結腸を支えている腹膜筋が、腹直筋に引っ張られて前後に蠕動運動を引き起こしているのかも知れない。何れにしてもこれはかなりの名器だな)
日本人の直腸の長さは十五センチから二十センチほどだという。そこから先はS状結腸と呼ばれる部位になる。その境目は僅かにつぼまっている。だから異物が直腸を抜けようとすると引き摺られるような痛みを感じる。佐久間のペニスは直腸の最奥部をゆうに五センチほどは超えてしまう計算になる。今の状況で言うなら佐久間のペニスはまだ秀貴のS状結腸の入り口には届いていない。その先にペニスを挿れようとするとコリコリとした感触がある。
佐久間は思わず笑みを零した。
「秀貴、お前のここはかなりの名器だ。自分から俺をまるごと引きずり入れようとしてるぞ?」
顔を上気させたまま秀貴は佐久間の目を見つめ返した。
「苦しいか、秀貴?」
「ううん、平気。少し楽になってきた」
佐久間は口角を上げ、鼻からフッと息を抜いた。
「お前、気持ちいいんじゃないか?」
「……うん。なんか変なんだ。さっきまでは痛くて、苦しいと思っていたのに……」
佐久間は腰を浮かせ、秀貴の後門を上から突くような態勢を取った。
「あ……龍一さん、痛い!」
「少しだけ我慢しろ」
佐久間はゆっくりと、リズミカルに抽送を繰り返した。
「ああっ、あ……!」
秀貴が喘ぎ声を漏らす。しかしそれは悦楽に裏打ちされた声色だった。
「秀貴いいか、根元まで挿れるぞ」
「龍一さん!……ああっ、あああ! ああっ」
「気持ちいいか?」
「うん!……龍一さん!」
「口で言ってみろ。気持ちいいのか?」
秀貴のS状結腸あたりがビクビクと痙攣して俺を締め付け始めた。
「いい……気持ち……いい!」
愛おしい秀貴を責め立て、奥を抉るつもりが、S状結腸の入り口で締め付けられ、後門の括約筋で締め付けられ、佐久間は一気に昇りつめた。
「うぐっ、あ……っ!」
佐久間は秀貴の腹の中で激しく吐精した。その快感に腰全体を痙攣させた弾みで、秀貴の直腸は前後左右デタラメに抉られた。
「ぐうっー! 龍一さん、僕、僕もイクッ!」
秀貴は天井に向かって精液を噴出させた。驚くほど高く。
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