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第19話 愛の交歓

 今朝は秀貴が先に目を覚ました。佐久間を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、キッチンへ向かう。  階段の窓からはまだ青々と葉をつける銀杏の木が覗く。秀貴と亜希子がまだ幼い頃に、銀杏の落果を踏みつけ、二人とも顔をしかめながら笑い合った思い出が頭をよぎる。 「くちゃい!」  記憶の片隅で亜希子が拗ねたような声を上げる。香りは記憶を蘇らせるが、視覚もまた香りの記憶を想起させることを、秀貴は改めて感じた。  二人の笑い声をいつまでも耳の奥に残しながら、秀貴は冷蔵庫を開けた。  僅かな時間を見つけて、近所のスーパーに買出しに行ったものの、まだ料理には慣れていない秀貴に作れるものは多くはない。  アイランドタイプのシンクに水を張りレタスとトマトを放り込む。水に晒したレタスを手で千切る。すると空焚きを知らせてくるコンロのアラーム音が鳴り渡る。レタスを掴むを止め、慌てて玉子を割り入れる。 「あ、間違えた。ベーコンが先だった」  急いで玉子の周りにベーコンを敷き詰めると、塩胡椒を振り入れる。 (たしか蓋をしないと黄身がキレイに焼き上がるとテレビでやってたよな?)  次第に玉子が焦げる匂いが強くなる。コンロの電源を切り、フライパンをのぞき込む。 「何だか豚の鼻みたいになっちゃってる」  秀貴は一度息を吸い込み、長い吐息を漏らした。すると不意に秀貴の肩口に、佐久間の顎が優しく触れた。 「うわっ」  心臓がどくんと跳ねる。首を上げ瞳が先に彼を捉え、ゆるゆると首だけ振り返る。柔らかい唇が触れると、秀貴の腰から下はどこかに溶け落ちた。  もし佐久間がそれを察して肩を掴んでいなかったら、秀貴は膝から崩れ落ちていたかも知れなかった。 「ええっ? 龍一さん、裸!」  ようやく我に帰り、秀貴はまた驚いた。佐久間は僅かに髪を濡らし、腰に真っ白なバスタオルを巻いたままの姿だ。いつもはきっちりと分けて撫で付けてある髪は、前髪が幾筋も瞳を隠すくらいの長さに垂れている。厚い胸板、八つに割れた腹筋、へその下から繋がる濃い体毛。ついその先を想像して、雄の色香にあてられて秀貴の心臓は三たび跳ねた。 「秀貴が起きてキッチンへ向かっただろ? 俺はそのままシャワーを浴びてきた」 「そうだったの。起こしちゃったね」 「いや、先に起きていたよ」  秀貴はちょっぴり残念に思った。佐久間より先に起きたと自負していた、自分のちっちゃな優越感は煙のようにかき消えた。 「朝食作ったから食べよう」 「ああ、腹が減っていたんだ」  佐久間はダイニングテーブルまで歩くと、そのまま腰を降ろした。 「龍一さん、服を着てよ」 「ああ、そうか」  立ち上がった佐久間の腰からタオルがするりと落ちた。表情とは裏腹に、佐久間の股間は半ばチカラが入っていた。 「昨夜は自重させたからな。こいつ、主人の命令を聞き入れてくれないようだ」  クールに平静さを浮かべる表情と、下半身の主張とはかなりの落差があった。ただ一枚の隠れ蓑を剥がされた途端に、佐久間のペニスはみるみる怒張していった。  秀貴は顔を赤らめ、言葉を失くした。だが秀貴の気持ちはすぐに向きを変えた。なぜなら秀貴もまた佐久間と同じ気持ちだったからだ。  佐久間の思いに応えるように、秀貴は着ていたシャツをさっと脱いだ。  佐久間はすぐに秀貴の気持ちを理解し、秀貴のもとへ戻っていく。  広いキッチンに秀貴の甘い吐息が吸い込まれていく。下着まで剥ぎ取られた秀貴のふくよかな尻を鷲掴みにしながら、佐久間は中腰になり秀貴の乳首を口に含んだ。吐息の間隔が次第に狭まり、狂おしいほどの喘ぎが漏れる。秀貴はたまらず佐久間のうなじに両手を這わせた。佐久間はふっと乳首から唇を離すとそのまま身体を起こし、秀貴の唇を強く吸った。いつもとは違う環境のせいか、その口づけは激しく、二人は音を立てて互いの舌と唇を貪り合った。  佐久間は一気に昂まりを見せた秀貴のペニスに自分のペニスを重ね、強く握りしめた。 「あうっ……!」  秀貴の口から嗚咽が漏れる。だが佐久間は口も手も離さない。やがてゆっくりと佐久間の厚みのある掌が上下する。緩やかで、だが確かな刺激は秀貴の脳髄まで貫く。  二人が身体を重ねなかったのはたった一晩だけだというのに、その身体から溢れ出る欲望は測り知れないほどの熱を帯びていた。  秀貴が膝を折った。床に膝まづき、佐久間の形の良い伸び上がるような屹立の先端を、愛おしそうに口に含む。佐久間の口元からも堪えきれない熱い吐息が漏れる。 「秀貴、気持ちいいよ」  瞳だけで佐久間を見上げ、秀貴は喉の奥ギリギリまで佐久間を咥え込む。吐息は喘ぎ声に変わり、佐久間はよろよろと後ろのキッチンの縁に腰を預ける。秀貴はそれまでより深く佐久間のペニスを喉に押し込む。僅かにえずきながらも口を離そうとはしない。 「秀貴、無理はするな」  だが秀貴はさらに激しく深く、口で抽送を繰り返す。ぐちょぐちょと淫靡な音はキッチンの床や壁に反響し、二人の興奮はいやが上にも高まっていく。秀貴はすっと左腕を伸ばし、佐久間の乳首に触れた。想像以上の反応に気を良くした秀貴は、口の動きを止めずに右腕を反対側の乳首に伸ばす。口の中の膨らみが硬さを増す。その時、秀貴の心は決まった。 「龍一さん、今日は僕から繋がらせて」  一旦口を離した秀貴の宣言は唐突だった。佐久間は一瞬迷った。だが佐久間も経験がない訳ではない。だが秀貴は歳下だ。羞恥心との葛藤はある。 「……わかった。だがその後に俺にもさせてくれよ」 「龍一さんにまだ元気が残っていたらね」  秀貴は佐久間のペニスをぎゅっと握り締めた。 「言ったな? 後悔するなよ」  秀貴は視線をさ迷わせ、一点を見つめた。 「これでもいい?」  秀貴が腕を伸ばし、手にしたのはオリーブオイルのボトルだった。 「どうせもうそのつもりなんだろう?」  頷く代わりに秀貴は佐久間のペニスを再び口に咥え込んだ。佐久間の喘ぎは更に増し、秀貴の雄の性を刺激した。  秀貴は立ち上がると佐久間の身体を後ろ向きにした。オイルのボトルを掴む手は僅かに震えていた。 「いくよ?」 「ああ」  秀貴は自分のペニスにオイルを塗り付け、硬く張った亀頭を佐久間のアナルに当てがった。そこは佐久間の身体の中で一番熱く感じられた。  秀貴の昂奮は最大に膨れ上がり、当てがったペニスを佐久間のアナルにゆっくりとのめり込ませた。 「ぐっ!」  佐久間は僅かに腰を引いた。だが意を決したように歯を食いしばり、腰を秀貴に押し当てるように突き出した。今度は秀貴が喘ぎ声を漏らした。 「熱い、龍一さんのここ、凄く熱い」 「ぐっ、あっ!」  佐久間の呼吸は乱れ、不規則に浅い呼吸を繰り返す。その度に佐久間の括約筋は収縮を繰り返し、秀貴のペニスをぐいぐい締め付けた。 「あんまり締めると痛いよ、龍一さん!」  秀貴の声は上擦り、吐息は荒く佐久間の背中に当たる。秀貴は次第に腰の動きを早め、ペニスから伝わる熱と快感を愉しんだ。 「ぐぁっ、秀貴!」  佐久間の喘ぎは秀貴を更に強く刺激する。秀貴は、がむしゃらに腰を動かし、歳上の佐久間を乱暴なまでに突き上げる。秀貴が佐久間のペニスに手を伸ばすと、ぬらぬらと滑らかな感触が伝わる。 「龍一さん、先っぽがすごい濡れてる……」  佐久間が顔を秀貴に向け、唇を押し付けてくる。まるでそれ以上は口にするなと言わんばかりに。だが佐久間を征服した思いに陶酔した秀貴は、ますます腰を激しく打ち付ける。 「ぐあっ、ひ……秀貴!」 「龍一さん、気持ちいいの?」 「……言わせるな、ぐぅっ!」  佐久間も自分のペニスを握り締め、上下に擦り上げる。先走りでぬるぬるになったペニスは亀頭が受ける刺激が強く、快感は長く深い。佐久間は伸び上がるように背中を反らせた。 「くっ、ああっ!」  肉体と肉体がぶつかり合う音がより大きくなり、それまでとはトーンの違う喘ぎ声がキッチンに響き渡る。 「秀貴、ダメだ。先にイキそうだ!」 「いいよ。でも龍一さんがイッても僕はやめないよ」  自分の中にある雄の激情を悟った秀貴は、器用に前後だけではなく左右にも腰を振り、居丈高に宣言した。 「ぐあっ……!」  佐久間が身体をよじり、一際大きく喘いだ。 「ここが気持ちいいの?」  秀貴は初めて理解した。自分と同じ、佐久間の快感のポイントを。おそらく前立腺の裏側なのだ。 「ここでしょ?」  秀貴が他より少し硬い部分をヌルりと擦り上げる。背後から挿入すると、ちょうどペニスの鈴口が触れる位置だ。 「くっ、ダメだ秀貴! そこは……!」 「容赦はしないよ」  征服者がそこを何度も擦り上げると、佐久間はキッチンの縁を掴み、身体をびくんとくねらせる。 「はぁっ、はああっ!」  雄の叫びだった。それを聴いて秀貴は激しいほどの愉悦を覚えた。佐久間の双丘の奥深くに挿入したペニスから伝わる快感は、秀貴の脳髄を直撃し、全身を強ばらせる。秀貴の動きに合わせるように、佐久間の手の動きも荒々しくなる。ひと漕ぎひと漕ぎが二人を悦楽の高みへと導いていく。 「ヤバい龍一さん、僕もう我慢できない!」 「いいぞ秀貴、俺の中に出せ!」  快楽の波間から浮かび出る佐久間の淫靡な言葉に触発され、勃起が痛いほど昂ると、秀貴の睾丸は収縮し、全力でその一瞬のためにぎゅっと持ち上がる。 「ああっ、龍一さんイクッ!」 「ぐうっ、俺もだ秀貴!」  二人は同時に吐精した。  秀貴はいつもよりも長く続く射精感に陶酔した。佐久間もまた普段とは違い、射精の瞬間の意図せぬアナルの収縮に、軽い痛みと快楽を同時に感じていた。二匹の雄は肩を上下させながら折り重なるように互いの身体を合わせた。  先に呼吸を整えた佐久間が秀貴に向き直ると、そのしなやかな肢体をキッチンの平台の上に組み敷いた。秀貴は背中に突き刺さるような冷たい感触に、きゅっと太ももをこわばらせた。 「龍一さん? 今イッたばかりでしょ?」 「俺に火を付けたのはお前だ。だからきっちりと責任は取ってもらうぞ」  秀貴は頭を起こし、佐久間の股間に目をやった。そこには天井に向かって昂ぶりを見せる佐久間のペニスがあった。  佐久間は秀貴の両足を持ち上げ、屹立した硬い矛先を秀貴のアナルに当てがった。佐久間の昂りは白濁した液体をまだ垂らし続けていた。佐久間はそのまま一気に秀貴を貫いた。 「あ、龍一さん……ぐあぁっ!」  秀貴は思わず大きな声を上げる。だが僅かな拒絶は意味を持たず、秀貴の繊細な秘門は佐久間の分身を根元まで飲み込んだ。 「あああっ、龍一さん!」  佐久間の表情は完全なる雄のそれだった。秀貴は不意に掴まれた乳首の感触に背中を浮かせるように仰け反り、喘ぎ声を上げた。 「ぐぅっっ……気持ちいい!」 「秀貴、愛してる」  応えを告げようと口を開けた秀貴は、より深い抽送に悲鳴のような喘ぎ声を漏らした。 「うぐっあああっ!」  佐久間の腰の動きは秀貴とは比べものにならないほど巧みで、秀貴を一気に官能の世界に引きずり込んでいく。 「ああっ、そこっ……そこ!」  秀貴は必死に口を開こうとするが言葉にはならない。 「ここだろう、秀貴?」  佐久間も秀貴のポイントは心得ていた。ゆっくり擦り上げれば秀貴は背中を反らして喘ぎ、強く亀頭を押し付けると泣き声が漏れる。 「あああっ! ダメ、ダメ……!」  秀貴の顔は涙と唾液でくちゃくちゃになっていた。  佐久間は自分の背中から流れ落ちる汗を感じていた。自分の下に横たわり、泣き顔を見せ、愉悦の声を上げる秀貴が狂おしいほど愛おしい。端正な顔立ち、鍛えられた厚い胸、綺麗にくびれた腰までの稜線、そして佐久間の肉棹を絡め取るように吸い付き、ぞわぞわと蠢く蜜壷。佐久間はその全てが愛おしかった。 (こいつの人生は俺が全て引き受ける)  秀貴の姿を見るたび触れるたび、佐久間は強くそう思った。そして秀貴にとって悲しい出来事に終止符を打ち、必ず幸せにしてやる、と。 「ああーっ、龍一さん! ダメ、イッちゃう!」  腕の中で喘ぐ秀貴を愛おしく感じれば感じるほど、佐久間の動きは荒々しさを増し、秀貴を享楽の極致へと導いていく。 「いいぞ。何度でも噴き上げて見せろ、秀貴」  佐久間は肉棹の根元まで強く押し込むように腰を打ち付けた。 「ぐああっ! 龍一さん、ダメ、ダメ!」  秀貴は腹を突き出すように背中を反り返らせ、白濁を一気に噴き上げた。 「秀貴、凄いな。ついさっき俺の中にあんなにぶちまけたばかりだと言うのに?」  秀貴は荒い呼吸を繰り返し、胸を上下させた。 「龍一さんこそ凄いよ、まだそんなに……」  佐久間はつかの間緩めていた腰の振幅を、容赦なく長く取り始めた。 「ぐっああぁ!そこは…… あああっ!」  秀貴は逃れようとするように腰をくねらせた。佐久間は感度のいい秀貴の左胸の乳首を強く摘んだ。秀貴は熱い吐息を吐きながら、反対側に腰を捻った。   佐久間のペニスが秀貴の一番深い部分に触れた。 「ぐあぁっ!」  その刹那、再び背中を仰け反らせ秀貴のペニスは透明で粘り気のある液体を噴き上げた。何度も何度も。ぬめりとしたそれは忍び込んできた朝の陽射しを跳ね返し、キラキラと輝いて見えた。  秀貴はぜいぜいと荒い呼吸を繰り返していた。 「カウパー液だな」  秀貴は額にびっしりと汗を浮かべ、半ば霞む目で佐久間の口元を見つめた。 「カウパー液?」 「いわゆる先走りだ。まさかこんなに大量に噴き上げるとはな。いわゆる潮噴きだ」 「潮噴きって……? うそ!」  一気に羞恥心が秀貴を包み込み、佐久間から顔を背ける。すると佐久間は秀貴のへそから脇腹まで舌を這わせた。 「だめだよ龍一さん、そんなことしちゃ!」 「何も変じゃないさ。そうだろ?」  秀貴は再び顔を赤らめた。そしてまた佐久間が容赦なく腰を突き出し、秀貴は淫らな喘ぎ声を漏らし始めた。  轍のように刻みつけられた悦楽は決して忘れることはない。その轍を踏めば、また快楽の頂点に達してしまう。そしてまた一つ、秀貴の身体に佐久間が新たな轍を刻み付けていく。  秀貴の身体に籠る熱は、出口を求めて暴れ回る。 「龍一さん、ダメそこ、ダメ!」  秀貴は全身を痙攣させて淫らに白濁を噴き上げていく。何度も何度も。 「秀貴、俺も弾けそうだ。イクぞ!」  秀貴は涙を浮かべた切なげな顔を佐久間に向ける。佐久間はその唇をびちゃびちゃと淫らな音を立てて啜りあげた。 「ああっ、龍一さん、龍一さん!」  佐久間は力の限り強く秀貴の双丘に腰を叩きつける。虚ろな瞳で秀貴の左手が空を切る。意識さえ飛ばしそうな快楽の海に溺れ、秀貴は力なく喘ぎつづける。 「秀貴!」 「ああっ、龍一さん!」  最後の瞬間に口にしたのは互いに愛する者の名だった。佐久間は背中を反らし、ドクドクと湧き出る雄の証を秀貴の体内に注ぎ続けた。  やがて佐久間はぐったりと脱力し、汗にまみれた鋼のような肉体を秀貴の胸の上に預けた。

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