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5.地上に降り立った天使の件

「一名様ですか?」 そのひとは地上に降り立った天使だった。 髪は白に近いふわふわの金髪、白い肌、当たり前のように背中には羽が生えていた。 雷に打たれた衝撃でフリーズしてしまったおれは、指でイチを作りながらにこっと笑いかけてくれる白シャツ・青エプロンのその人がなんと言ったのか聞き取れずまごつき、とりあえず首を縦に振ると「窓際のお好きなお席へどうぞ」と軽い誘導だけされて玄関口で放置されてしまって絶句する。なんだよ、なんなんだよ、俺の知ってるガストとかサイゼは席まで案内してくれるぞ…とビビりまくりながら、不自然じゃなさそうな位置のテーブルにビビりながら着席する。 え、え、え、待って、メニュー置いてないんだけどどうしたらいいの?呼び鈴もないけど???? やはり、オタクから一歩踏み出しただけのおれには「カフェ」とかいうオシャレ空間は二が重すぎたんだ、場違いにも程がある、いますぐワープ魔法で実家へ帰りたい…と思ったのつかの間、さっきの天使がテーブルに近づいてくるのが見えた。うわうわうわ、て、てんしが!!!こっちにくるよーーー!!!!! 白い羽をふわふわ揺らして歩いてきた天使は「こちらメニュー表です。当店は初めてですか?」と言いながらテーブルにフォークとナイフが入ったカゴ(?)とお水を置いてくれる。 「えっ、え?は、ぁ、はい…はい!」 「本日のオススメはビーフシチューオムライスでございます。本日のランチメニューはこちらでして、メインのパスタはこちらからお選びください。ドリンクはこちらの表のなかからお選び頂けます。プラス料金は頂戴しますがグランドメニュー内のアルコールもお選び頂けます」 「はあ」 メニュー表を丁寧に示しながら説明してくれているのに、おれには全部右から左でなにひとつわからなかった。そう、あなたが超絶にかわいい声をしている天使だっていうこと以外なにもわからないです。 「お決まりになりましたらお呼びださい」 最後にニコッとエクボを見せてくれたその人がすっと踵を返し、腰で結ばれた青いエプロンの紐のしたの黒スラックスに包まれた長い両足です、す、と優雅に風をきってカウンターの向こうへ消えていくのを見て、大学デビュー直前のおれはここで働こうと決めたのだった。

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