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10.世界一うまいオムライス事件

実はもう大学は入学式終わってて、空き時間にバイトをする日々が続いていた。 お客さんが少ない時間帯は接客練習、忙しい時間帯は料理を運ぶサーブってポジションを任された。 店長とタイマンでお客さんから注文を聞くのはオーダーテイカーって言うポジションらしい。まだまだメニューを把握しきれてないから、店長相手にあいかわらず毎回テンパってるダサいおれ。だって急にサイドメニューについて質問してきたり「この料理って辛いですか?」みたいな、フツーのお客さんっぽい質問してきておれの知識を試してくるんだもん、新人いびりはやめてほしい(泣) それでは『世界一うまいオムライス事件』について話そうと思う。これはまじでレジェンドエピソードだから、ほんとに! その日は休日の昼のピークの時間帯で、ちょうどお客さんはほぼ満員で、忙しさもピーク こんな時間に新人のおれなんて入っても足手まといもいいところだと思うんだけど、ナリタ店長は『人手が増えるだけで本当に助かる!土日も入ってくれてありがとうなカイセー』ってシフトに入れてくれるんだ。 その日はおれの天使・ミズキ先輩は熱気溢れるキッチンで忙しそうにしてた。挨拶を掛けるのも躊躇するくらい真剣な顔で働いてたから『今日もいる!かわいい!!汗かいてる!』と勇姿を目に焼き付けてから、おれもすぐに白シャツ・ストライプエプロンの制服着てフロアに入った。 店長は「メニューは目と匂いで覚えるのが一番」って言ってたけど、マジでそうだと思う。 ワタリガニのグラタン。豊潤なカニの匂いがヤバくて、ビジュアルと匂いだけでコレは絶対うまいやつだと分かるアレ。 肉盛りプレートはミディアムレアに焼いた柔らかそうな牛肉がヤバいし。 3種類から選べるパスタはトマト系、クリーム系、ペペロンチーノ系。 ぐつぐつ油が煮えてるスキレット(覚えた)はホタテとエビとマッシュルームのアヒージョ。(アヒージョってなに?) とにかく、どれもめちゃくちゃうまそうなんだよなあ! しょっぱくて熱々の料理を頬張りながら外のテラス席でサングリアやオーガニックビールを煽るおじさん、おにいさん。ワッフルのシナモンシュガー掛け・アイスクリーム乗せ、チーズケーキ、食後のコーヒーでお喋りを弾ませる女性方。出来立てホカホカのいい匂いのする料理を生唾飲み込みながら配膳すれば、メニューなんて嫌でも覚えるし、死ぬほど腹が減るのは必死だ。 そんな感じでテーブルとキッチンの間を必死こいて往復してたら、12-14時の忙しさMAXの時間帯なんてあっという間に過ぎた。 フロアもお客さんが徐々に減ってきて落ち着きを取り戻してきてた。でも働いてる側はまだまだ忙しい。テーブル拭いたり、紙ナプキンの補充したり、食器片付けたり。その合間に料理も運ぶからおれはずっとてんてこまいだ。 「カイセー、それ運んだら休憩行っておいで」 「はいっ店長!」 熱々のアヒージョ(だからアヒージョってなに?)をテーブルに運んで、バックヤードに引っ込んでエプロンを外してでっかくため息ついた。そんなおれを見て店長が笑う。 「ちょっと疲れた?」 「なんかすげーー働いたー!って気がします😅」 「頑張った証拠だよ。お腹空いてるでしょ?今日カイセー6時間勤務だから一品タダで食べられるよ」 「ほんとですか!?」 「ただ、まだちょっと忙しいからランチメニューのなかから選んでくれると助かる(笑)ランチならすぐ出せるし、手間数少ないからキッチンのみんなが助かるんだ」 「分かりました!」 そういえば初日にそんな説明も受けたんだった、すっかり忘れてた。 どれにしようかなあ、全部うまそうだったもん、やばいめっちゃ悩む…!! バックヤードの壁に貼ってあるメニュー表を睨みながらうんうん悩んでいると、キッチンのほうからひょこっとミズキ先輩がひょこっと顔を出した。 厨房のほうは火や油ものを扱うのでピークの時間帯は結構熱気がすごくて、先輩も体温上がってほんのりほっぺが赤く染まって、ちょっと汗までかいてて。いつもは爽やかにふわふわの金髪を揺らしてるのに、今日はなんだか一段と色っぽく見えてドキッとしちゃう。 「カイセー、あのさ、オムライス好き?」

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