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ルトにかぶさり、無様な姿を見られても慌てる様子のない獣人は、着衣を乱していなかったのだと今更気付いた。追い詰められた最中ではわからなかった。獣人は、穴に挿入する局部を寛がせているだけだ。尿意をもよおすように。
素っ裸でみっともなく、両足を大きく開いているのはルトひとり。あまりの羞恥に、青白い頬に赤みがさした。
「ぅ、……」
「むちゃ言わないで下さいよ、陛下。狼族は射精するのに、短くても三十分はかかるんですから。一時間じゃ足りねぇっての」
「馬鹿馬鹿しい。たかが穴に突き入れて擦るだけだろう。残りの三十分もあれば、十分に事は足りる。余の予定が詰まっているからと、先にお前らを遊ばせてやれば、これだ」
身体を揺らされ呻くルトの声は黙殺され、壮絶な乱交現場とは思えない淡々とした会話が成立する。
凛々しい声色に似つかわしくない獅子の言葉に、後ろで控えていた、新たな獣人が諫めた。獅子の従者らしき姿は力尽きたルトの目にかすんで映り、渋る声だけが強く届く。
「穴に入れて擦るなどと……、陛下。言葉を謹んで下さい」
金色の目が背後の部下に流れた。なんの感情も乗っていない冷淡な顔は、意志の強い眼光だけを鋭く光らせている。
「はっ、このツエルディング後宮で言葉遣いなどあるか」
ツエルディング後宮。ツエルディング……、獣人国の言葉だ。意味は、なんだったのか。ルトはどろどろ蕩ける思考を働かせた。いつもならすぐ理解するのに、体内には熱い飛沫がずっと送りこまれている。そのせいでまともに考えられなかった。
「くだらん。こんな後宮で礼節を重んじるほど、余は狭量ではないぞ」
「陛下、ですがお立場を」
「くどいぞグレン。立場がどうというなら、余を前にしても礼拝しないラシャドを罰さねばならぬが。さらにはこの大広間で散り散りに潰れて動かぬ、人間どももだ。ラシャド以外の獣人は……あらかた事を済ませているから懲罰はせぬが、どうする」
せっかくヌプンタから集めたばかりだ。獣人に弄ばれた少年は息も絶え絶えになっている。しきたりにのっとり懲罰を与えれば、風前の命は尽きるだろう。
だいいちラシャドだけならともかく、この数の人間を処罰するとなれば手間がかかる。荒くれる獣人の蹂躙に、最後まで耐えきれたなら、本来の目的を果たしてもらわねば。
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