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「治癒はこのもので最後です、皇帝陛下。すでに息絶えていた子どもは、向こうに寄せてあります」  ルトは息をのんだ。息絶えた、ということは、死んだのか。  無理やり獣人に貫かれた少年のなかには、性交を知らない子もいただろう。幼い性を蹂躙されただけでなく、そのはかない生命をも奪われた。あまりに簡単に、あっけなく……ともすれば、風船よりも軽い命か。  今までずっと、小さな世界で綺麗なものだけに触れていた。だから知らなかった。こんな、道理に外れた暴力が横行していただなんて。他でもない帝国シーデリウムで。  許せるはずがなかった、でも力を持たないルトたちはそれを受け入れるしかない。ここで庇護を求めても、誰も助けてくれないのだ。  ほんの少し、赤みが戻ったルトは唇をぎゅっと噛みしめる。  ――ひどい、ひどい。あんまりだ。大切な家族と引き離されて、遠い地へ連れてこられて。馴染んだ大地を再び元気に駆けることもなく、故郷に残す親しい友にも触れ合えずに。怯え、苦しみ、孤独に。ただ嬲り殺されるためだけに、連れてこられた。獣人に犯されるためだけに――。 「――魔術師がお前らに嵌めた足環は、ツエルディング後宮のものである証だ。二度と外すことは許さぬ。もしも外したら、今日以上の苦痛を味わうことになるぞ。これからお前らは、あらゆる獣人の子種を孕むのだ。我ら獣人族の繁栄に、その身を使って貢献してもらおう」  義務的に説明を重ねる皇帝の冷ややかな声は、もうルトには届かなかった。 ***  あの日からルトたちの日常は激変した。獣人の恐ろしさを徹底的に叩きこまれ、逃げようと思う気力さえも奪われた。  激しい蹂躙に三人の少年が命を落とした。あれから二週間ほど過ぎただろう。手酷く犯されたのは、あの日だけ。だが少年たちはみな、心の底から怯える日々を過ごしている。  表情は晴れることなく口数も少ない。生まれて初めて味わう苦痛と恐怖におし潰されて、辛い現状を、どう乗り越えたらいいのかわからないのだ。

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