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 獣人に言われるがまま、ただ毎日決まった時間に起きて、祈りをささげる聖堂のような食堂へ集まる。規則的に与えられる、三度の食事はとても質素だ。酷ければ、明らかに食べ残しただろう食事を渡される。半分以上齧られた上等な肉には、獣人の唾液でべとべとしているものもあった。  それでも残すことは許されない。後宮には二十四時間、宮内と宮外に、それぞれ監視がついている。吐きそうになりながら、ルトたちは食事を喉に詰めこんだ。まるで、あの狂った宴を忘れさせないと言わんばかり。 「それで最後だ。残さず飲め」  広い食堂を見回る獣人の大きい声が響いた。誰かが注意を受けたのだ。  ルトたちは食事のあと、一杯のジュースを飲むように言われている。それは甘い香りがして、舌の上に流せばとろけるような濃厚さがあった。口にあわないと顔をしかめる子もいるが、ルトはこのジュースは好きだった。甘くて、美味しい。 「ルト、僕のジュース、あげようか?」 「だめだよエミル。食後のジュースは、絶対に飲むように言われてるでしょう? もし見張りの獣人に見つかったら……、きっと、ひどいことされるよ」  長いテーブルで、ルトの隣に座るエミルが、ジュースをこっそり差し出してくる。ルトは小声で断って、コップをエミルに押し戻した。  きっとルトのために、残してくれていたのだろう。気落ちしたエミルは軽く頷き、トレイに乗った自分の分をごくごく飲む。するとエミルの表情が、ジュースと同じくとろけるようになった。ルトにくれると言ったエミルも、最後のジュースは甘くて美味しいと言っていた。  悪夢を味わったあの日。必死で逃げたエミルは獣人の餌食にはならなかった。だからなのか、エミルは必要以上にルトに気兼ねする。エミルの代わりに、ルトが獣人に犯されてしまったのだと思っている。ルトひとりなら、逃げられたのにと。  もちろんルトが獣人に目をつけられたのは、エミルのせいではないだろう。エミルが必死に逃げて、獣人に襲われなかったのも、運が良かったとしか言いようがない。  それなのに、エミルはルトをヒーローのように扱う。憧れの兄のように親しんで、ルトの傍を離れない。精神が病んでしまいそうな後宮で、ルトとエミルは互いを支えあうように、寄り添って過ごしていた。

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