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「水だよ、飲める? 今、魔術師を呼んだから、きっとすぐに来てくれるよ。頑張って」
ルトは極力穏やかな声をだしながら、少年に添える手のひらに力をこめる。少年の吐息が少し落ちつくのを見計らって、震える口に軽く水を含ませた。
そうしていれば、寝所にひとりの魔術師が姿を現した。彼らは魔術で、空間を自由に移動できるらしい。一瞬でやってきた、黒いマントを着た男に視線が一気に集中する。魔術師は、緊張したルトたちの視線をものともしていない。ルトの腕のなかで、びっしょり汗をかく少年に、ひた、と目を向けてきた。
「その子か」
「はい……」
伸びてきた腕に少年を渡す。苦し気に呻く少年の腹に、魔術師の手が添えられた。少年の腹を探るように手のひらが移動して、魔術師が厳しい声を出した。
「核種胎 の影響だ。この子が明日の朝まで生き延びれば、待ち望む獣人たちに献上するとなるが。この調子では難しいか」
ひとり納得したあと、魔術師は簡単な治癒術をかける。少年の呻き声が小さくなった。荒い息が治まった少年を再び寝台に寝かせ、不安を隠せず様子を伺うルトたちを見やる。透きとおる若草色の瞳が、ルトを捉えた。
「核種胎の根幹がこの子の中に浸透するまで、耐えがたい苦痛を繰り返す。生き残れば朝には治まるだろうから、このまま寝かせておけ。痛みに耐えられるかどうかは、この子次第だ」
「か、かく、しゅ、たい?」
「核種胎だ。あのとき陛下が仰せられただろう。お前たちに足環を授けられた日だ。核種胎を体内に取りこんでも支障なければ、その身に獣人の子を宿すようになる」
「な、なにそれ……、知らない、どういうこと……」
「明日の朝、様子を見に来る」
動揺するルトたちを置きざりに、魔術師は足早に立ち去った。姿が消えたと同時に空気が揺れる。寝台で、か細い息を紡ぐ少年から、甘い香りが微かに漂った。この後宮で唯一好きだった、ジュースの匂いが。
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