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第四話 核種胎と死と開門の儀

「やはり駄目だったか」  昨夜の魔術師が、寝台に横たわる少年を見て呟いた。  朝を迎え、少年からは生気が消えていた。全身は硬直し、赤らんでいた顔色は土気色に変色している。少年は明け方に息絶えた。苦痛の呻き声が小さくなり、ルトがようやく寝入った後だ。  ずっと見守っていたからわかる、その頃までには息があった。だが最後は、長引く苦しみに耐えられなかったのだ。こんなにすぐ傍で、死体を見るのは初めてだった。  昨日の夜中まで温かかった肉体は、もう冷たい。痛ましい姿に、ルトは顔を強張らせる。どんどん気力をなくす状況で、でもどうしても魔術師に聞きたいことがあった。この少年はなぜ、死ななければならなかったのかと。 「か……、核種胎って、なんですか? 俺たちがじゅ、獣人の子どもを、はらむって……」  少年の骸を観察している魔術師の背に、ルトが尋ねた。おそらくルトの問いは、この場にいるすべての少年たちの疑問だっただろう。  昨夜、魔術師が去ったあと、エミルも核種胎について知りたがっていた。蹂躙された日に、皇帝が伝えたといっていたが、あんな悲惨な出来事のあとだ。たとえ何かしらの説明がされていたとしても、まともな思考が残っているはずもない。  いくら思い出そうとしても、浮かんでくるのは、ルトをじっと見つめる金色の瞳だけだった。  改めて説明して欲しいと、ルトは請うた。無表情のまま魔術師が振り返る。 「核種胎は、獣人が繁殖に用いる種のことだ。それを体内に入れ、幾度も精を注げば種が育ち偽子宮を作る。そこに精子を受け入れて着床できれば、子を孕む」  それは、雌より雄が圧倒的に多い獣人が、子孫を残すために欠かせないものだった。獣人の生態に明るくないルトには考えもつかなかったが、種族によっては雄しかいない獣人族もいるらしい。

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