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毎食後に与えられる甘いジュース。それは核種胎の種たねをすり潰して作られていた。濃厚な核種胎を、長期間とり続けても体調を崩さない人間が、確実に獣人の子種を宿せると判断される。
近頃、体調を崩していた少年たちが、原因を知らされて顔色を失くした。核種胎をすでに、大量に身の内に取りこんでいる。もはや取り除くことはできない。このたった、二ヵ月で……。
「この子のほかにも、身体 が核種胎を受けつけないものがいるはずだ。獣人の子種で人間が妊娠する期間は二週間だが、ときに二ヵ月かかる場合もある。念のため二ヵ月と半月、核種胎を飲み続けてもらう。あと半月耐えきれば、お前らを獣人に差し出す」
理不尽に命を落とした、小さな亡骸に背を向ける。立ち尽くすルトたちと向き合って、若草色の魔術師は無情にも淡々と宣言した。
「恨むなら、自分の親を恨め。お前たちは獣人の国へ売られたのだよ、他人の安寧と引き換えに」
無機質な声音だ。魔術師が冷たく放った言葉の刃は、ルトたちをひどく傷つけた。そう、そのとおりだった。
ルトだって、村のみんなと離れたくはなかった。ずっと、あの村で生きていられるのだと信じていた。ときおり考える。もしもルトが孤児ではなかったら、村長はルトを獣人国に差し出しただろうかと……。
いくら考えてもそこに正しい答えなどありはしない。もとより、ルトには親がいないのだから。顔も素性も知らない親から捨てられたルトは、半ば強引に自身を納得させてバーラ狩りに承諾した。
そのほうが、気が楽だったから。村人たちを犠牲にしなかった選択だけは、正しい答えだと思えたから。ルトを育ててくれた故郷からも見捨てられたのだと、思わずに済んだから。
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