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彼らは中央にいるルトたちの前に堂々と佇む。ルトと瞳が合った獣人が、ひとり前に出て滑らかに口を開いた。
「これよりツエルディング後宮の開門の儀を行う」
これは、この、声は――名は、何と言ったか。そうだ、ラシャドだ。たった一度身体を交えたときの荒っぽい口調ではなかったが、見間違うはずはなかった。
「我がシーデリウム帝国に住まうあらゆる獣人たちよ、皇帝より賜れたり此れ後宮をいかようにも出入りされたし。加えて、後宮に預かり受ける繁殖用の孕み腹を自由に使う権利を得たり。此れ宮内外の獣人に問わず。此の方獣人なり、我の言葉を持ってシーデリウム帝国皇帝陛下の君命と成す。いかなる時も獣人は子孫を授かれるなり、例を破るはここにあらず。其の方人間なり、獣人の意思は己が意思なり。いかなる時も其れを捧げ、此の方の願い受け入れたし。沈黙は応、破るにあらず。其の方役目を果たされるなり。獣人は繁栄を、人間は服従を」
「応、此の方獣人なり、かの者の望み受け入れたし」
「応、此の方魔術師なり、開門の儀に誓約したり」
「応。大広間の扉を開けよ! 皇帝陛下の御命にて、ツエルディング後宮の開門は成さるる。集いし同志たち、これにてごゆるりと、過ごされよ」
謳うように言葉を紡ぐラシャドを追いかけて声が重なる。片手の甲に、まっすぐ手のひらを乗せたまま肘を張り、伏し目がちに俯いていた獣人のひとりと魔術師の総帥が応じた。
ラシャドが最後の言葉を言い切れば、魔術師たちは深々と敬礼をして、大広間から姿を消した。
誰ひとりと、声を発せられなかった。だが大広間に訪れた静けさは、ほんの数秒ほどだった。
ぎぃ、と、高い天井まで届く大広間の重たい扉が左右に開かれる。どかどかどかと、荒々しい足音を立てた獣人たちが我先にと駆け寄ってきた。
犬、猫、馬、熊……それに翼を持つ獣人や、谷奥にいると聞く、竜らしき獣人まで。何人、いや、何十人か。中央で腰を抜かし、固まるルトたちを、獲物を狩る鋭い瞳がじっくり眺めまわした。
そして、先ほど開門を告げたラシャドが、焦りのない確かな足取りで、怯えるルトに近づいてきた。
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