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6-(7)
「行きたくなくてもだ。来い。お前は今から俺の相手をするんだ」
「ぅ」
ルトへの情などなにもないくせに傲慢に言い放つ。嫌だと思う。理不尽だと思う。なぜ自分が、この獣人のいうことを聞かなければならないのだと思う。でもルトは従うだろう。目の前に立つだけで、卓越した存在感を放つ獣人を、怒らせないために。
獰猛な獣人はルトの拒絶を許さない。許されないならば、ラシャドの機嫌を損ねてはならないのだ。急かされるまま、慌てて根が生える両足を動かす。覚悟を決めるように、ルトにしてはやや乱雑に。恐怖に動かぬ足を懸命に動かす。
生き地獄に投げ落とされた身体は、鉄塊で固められたように重たかった。ただ歩くだけ。それだけが、こんなに難しかったのだと身をもって体感する。両足がもつれそうになりながら、気を抜けば脱力しそうな下半身に力を入れた。
一歩、一歩、もう一歩。平坦な地面のはずなのに、転げ落ちてしまうほど、急な山の頂に上っているみたいだ。あんなに大きい扉までがとても遠い。息切れがして、もう無理だと思ったときルトの背中がとんと押された。
「わ……っ」
「遅ぇんだよ。言っただろう。何度も言わせんな、来い」
けだものが慣れた様子で命令を下す。ルトは、泣きそうになりながら、先を進む大きな背中を必死に追いかけた。
気休めに二十部屋だけあるという室内は、どこも作りは同じ。簡素な家具と、ど真ん中には大きすぎる白いベッド。ベッドの横にある棚には、様々ないやらしい玩具が並ぶ。
「てめぇで脱げ」
室内に入れば服を脱ぐように言われ、ルトは細い指先で素肌をさらした。服といっても後宮が開放されてからは、ワンピースに似た薄布一枚だ。突っこむのに邪魔だろうと下着さえもらえなかった。
裸になるなり、少し苛ついている乱暴な手が、白い裸体をベッドに沈ませた。大広間で、ルトが姿を見せたときは機嫌がよさそうだと思ったのに、どうやら気が変わったらしい。
「ふ……っ」
大小の人影が重なりあえば、湿った息遣いが響きだす。傷のない、滑らかな白い肌を、ラシャドが堪能した。がちがちに強張って、全身で鳥肌を立てた肌はさぞ触り心地が悪いだろう。
片手で簡単に折れそうな細い首筋を、武骨な指先が撫で上げていく。武芸でもしているのかその手は分厚く、ところどころ皮膚が硬い。何度もできた豆を潰した名残かもしれない。ルトの柔らかな肌とは、あまりにも違い過ぎた。撫でられるたびに、強く、触れ合う感触を意識した。
「う、ぁ……っ」
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