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第七話 覚悟

 たぶんルトが最初だった。エミルの異変に気がついたのは。  さらに数週間が過ぎ去ったその日のことだ。獣人を何人も受け入れて、限界まで拡張された体内を洗うためにルトは大浴場に行った。どうしても身体が動かないときは、自分で届く範囲で体液をかき出すしかないが、今は動けそうだ。  足輪がいつ振動するかわからないから、事が終わればたいていすぐに汚れた中を洗う。自分で清め、次の獣人に身体を使われてもいいように用意しておく。重い身体を引きずり、ルトは大浴場に急ぐ。  孕み部屋にも浴室はあるが、部屋数が少ないうえ、頻繁に獣人が出入りする。運悪く獣人とかち合ってしまったら、そのまま襲われてしまうのだ。孕み腹専用の大浴場なら、少し遠いが獣人は来ない。  息を切らせてようやく着く。大きい浴場に常備される、泡玉に似た七色の玉を、ルトはひとつ手にしてタイルの上に投げつけた。  左右に割れた玉から噴水みたいな湯が飛び出て、その上に座りこむ。勢いよく噴射する湯が、ぱかりと開いた尻の穴に注がれて、奥まで洗浄していった。 「ん……っ」  腸壁を逆流する水圧に思わず声が出る。一日に何度もする洗浄は、排泄行為をさらしているようで抵抗はあるものの慣れるしかない。  だが、長さも大きさも形も違う様々なペニスで摩擦されるより、尻の位置を自分で調整しながら内部に注げるのでずっと楽だった。手際よく行えば、短時間で終わるのも都合がいい。  そのためルトの腸内からは、いつも白濁した液体か、透明な湯水が垂れ流されていた。食事量が少ないからか、固形になりきらない排泄物がとろりと出るときもあるが、それも腸内洗浄を数回ほど繰り返せばきれいになった。  基本、ルトたちは朝食後から夕食前まで獣人の相手をする。ルトがエミルの様子に気がついたのは、訪れる獣人の数が減ってきた夜だった。  獣人の足が遠のき、久しぶりにエミルと二人で大浴場に行った。ルトの隣で、エミルが着ていた服をぱさっと脱いだときだ。 「あれ……? なんか、エミル匂いがする……?」 「匂い?」  脱衣場に備えられた棚へ服を置きながら、エミルが首を傾げて自分の腕をすんすんと嗅いだ。明るめのブラウンの瞳がまん丸とルトを見つめる。  先ほど感じた匂いは、もうエミルからは消えているよう。裸になったエミルに鼻を近づけくんくんする。今度はルトが疑問符を浮かべた。 「ふふっ、ルト、くすぐったいよ」 「あれ? さっきエミルから、甘い香りがしたのに。エミル、もしかして、匂い袋かなにか持ってる?」

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