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 脱いだときに匂ったから、服に香りがついていたのかもしれない。ルトはそう思い尋ねたが、エミルはさらに目をぱちぱちと丸くさせた。 「えぇー? そんなの僕、今まで持ったことないよ。変なルト」  思わずといった様子で、くすくすとエミルが笑う。幼い少年らしい笑顔を見たのは久しぶりだ。この間、寝台に戻ってきたエミルはとてもひどい扱いを受けていた。  見る見る元気がなくなって、ルトの癒しを使っても、ほんの少ししか安らぎを与えてあげられなかった。  懐かしささえ感じるエミルの笑い声に、ルトはなぜかほっとする。エミルと並んで、大浴場に進んだ。匂いは完全に消えている。どこかで嗅いだ覚えがあったから気になって聞いてみたが、どうやら勘違いだったらしい。  今なら、エミルの気分も明るそうだ。ルトは悪ふざけを思いついた。一通り身体を洗いっこして、エミルに見えないように七色の玉をタイルに投げつける。割れた玉から飛び出した、小さな噴水を手のひらに握った。 「エミル、エミル。こっち向いて」 「なぁに?」  ルトは指の隙間から勢い加減を調整して、エミルにばしゃっと噴射する。きゃあとエミルが騒ぎ、素早くルトから逃げて、お返しだとエミルも同じように玉を割って噴射してきた。 「っぷは」 「やったぁ! ルトの負けー」  指の間から噴水を振り回してエミルが喜ぶ。エミルの狙い撃ちは見事、ルトの額を直撃した。避けようと思えば避けられたのだが、それはルトだけの秘密だ。  はしゃぐだけはしゃいで、使い終わった玉を隅にある箱に捨てる。二つじゃなくて、六つ。 「こんなに使っちゃった……あとで怒られないかなぁ……?」 「そんなの、誰が何個使ったかなんて、きっとわからないよ。一回で綺麗にならなかったら、一度で何個も使うときだってあるんだし」  もし見つかったら、ルトは自分がエミルの分も罰を受けようと思った。わんぱくな熱が去って、少し不安を見せたエミルにルトが笑う。ルトの返事に、エミルはまたふふふと頷いた。  水かけっこならぬ噴水かけをして、ルトも久しぶりに笑顔がはじけた。だからすっかり忘れてしまった。  エミルの匂いを。そして、どこでその匂いを嗅いでいたのかを。  ルトの疑問が解かれるまでそれほど時間はかからなかった。翌朝、召喚してもいないのに、ルトたちの寝所に魔術師が訪れた。まだ朝は早い。ルトたちは寝ぼけまなこで寝台を降りた。 「なに?」 「なんでいるの?」 「誰が飛報石を使ったんだ?」

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