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なにしに来たのだと、あちらこちらから戸惑う少年の声がする。エミルに至っては動揺して、ルトの服をぎゅっと掴んでいた。とうぜん魔術師にいい思い出はない。ルトも不安になりながら、目の前に立つ黒い格好の男を見た。
彼らは交代でルトたちを見張っているようで、ルトを見つめ返す透きとおる瞳は初めて見る不思議な色だ。
事の成り行きを見守っていれば、魔術師はルトの隣に隠れるエミルの姿を捉えた。
「シーシェル色の。君がエミルだな」
「ぼ、僕……?」
名指しされたエミルがルトの服をさらに強く掴む。ブラウンの瞳が不安に揺れ動いた。傍から見てもエミルの混乱が手に取るようにわかる。ルトはさりげなく、服を掴むエミルの手を握り返した。手のひらに力をこめてエミルの不安を軽減する。
だが次に魔術師が告げた内容の前では、ルトの癒しの力はなんの役にも立たなかった。
「君は子を孕んでいる。誰の子を宿したのか、これから魔法省で調べる。ついて来なさい」
「は…ら………、ぼ、僕は」
うそ、とエミルの唇が音もなく動いた。ルトも茫然としてしまった。エミルが獣人の子を孕んだ、孕まされた。
これまで幾度も繁殖用と言われてきたが、数週間たっても状況はなに一つ変わらなかった。だから、心の奥のどこかで、これからもこの状況が続くのだと思っていた。それなのに本当に獣人の子を宿してしまった。考えが甘かった、甘すぎた。
実のところ十五で成人となるヌプンタでは、幼い子どもの妊娠はそれほど騒がれはしない。とりわけルトのような身寄りのない子どもは、小さな命を繋ぐために小児性愛者へ身体を売ったり、どこぞの金持ちに囲われたりするのもたまに聞く話だった。
金に困った大人が見世物小屋に少年少女を売り渡すこともあれば、ある日突然人さらいにあうこともある。ルトがいたシャド村では禁止されていたが、古い因習に縛られた村では、まだ幼い娘を村の男に嫁がせる風習さえあった。
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