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だがいずれの道を辿ろうとも、非道な行いで不運にも子を宿すのは女の性を持つものだけだ。男の性である子どもが同じような境遇になっても、妊娠などしないのだ。それなのに。
男の性である身体を作り変えられた――、ただ淡々と、説明されるだけではわからなかった。剥き出しの後頭部を、硬い鈍器で激しく打ち抜かれたような衝撃を。
あまりの強烈さに、頭の中がぐらぐら割れて崩壊しそうだ。瞼の奥が白黒に点滅し、やがては暗闇に閉ざされる。
他の少年たちも、突きつけられた事の成り行きに顔色を変えていた。信じられない、否、信じたくない。震える唇を動かして、ルトは魔術師に口を挟んだ。
「待って、ください……。エミルが、子どもを宿したなんて、間違いとかじゃ」
「間違いなどあるはずがない。アトラプルム館の管理情報は魔法省で最高クラスだ。信じられないというなら、彼の足環を見るがいい」
「足環……」
舌がもつれそうなほど聞き慣れない単語のなかに、唯一馴染んだ言葉を拾う。ルトを含める少年たちの目線が、エミルの左足首に集中した。エミルも真っ先に確認している。そこにはいつもと変わらず、足環とともにシーシェル色の宝石がある、はずだった。
しかしルトたちの目が映したのは、真っ黒に輝く宝石だった。当人であるエミルが眉を下げ、困惑した声を出す。
「な、なんで。昨日までは、ちゃんとシーシェルの……」
「黒色は子を孕んだ証。どんな獣人でも孕み腹を侵せない、誰にも染められぬ証だ」
「そ、な……」
途方に暮れたようなエミルの呟きが、寝所に虚しく響く。魔術師はさらに追い打ちをかけた。
「子種を着床させて活性化した核種胎の匂いが、君からほのかに香っているはずだ。もう少し安定すると、孕ませた獣人の匂いしかしなくなる」
「核種胎」
目を開いて、思わず口に出してしまったのはルトだった。昨日エミルから感じた香り。どうして気づかなかったのだろう。あの微かな甘い香りは、核種胎の匂いに違いなかった。
「まずは父親の特定だ。相手が判明したら、こちらから子種の獣人へ連絡を入れる。まれに、獣人でなく人の子も生まれるからな……隅々まで、調べなければ」
最後のほうは、ルトたちに説明しようとする口ぶりではなかった。けれど、魔術師がひとり言のように呟いた言葉に、ルトがいち早く驚きの声をあげた。
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