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「人の子? 人間の子どもを?」  獣人の孕み腹というくらいだ。だから、てっきり獣人しか宿らないのだと思っていた。だが魔術師は、確かに人の子と言った。 「人の子って……じゃあ、獣人以外の、人間の子も生まれるんですか? 獣人だけしか生まれないんじゃなくて? 本当に? 人間が、この国で?」  驚きに何度も食い下がるルトに、魔術師は煩わしそうにため息をついた。無視されるかと焦って、矢継ぎ早に口を開く。  特例はあるが、と魔術師は前置きして、うっとうしそうにルトの疑問を訂正した。 「核種胎とはいえ二親の遺伝子から子を成すのだ。より強い獣人が生き残る……生まれてくるのは、自然の道理。核種胎で成る実は大半が強い生命を生む。だが強い種族しか生まれないのなら、この世は同種族しかいなくなる。それでは世界が成り立たない。弱い種族もあってこそ、生命のバランスが維持できるのだ」  弱肉強食の世界では、捕食される弱者がいるから命は巡りまわっている。  核種胎の種たねが、強い遺伝子に反応するのは確か。強い生命を生みだそうとするのは常だ。しかし強者だけに偏ると、この世は均衡を保てなくなる。  ときにはもう片方の弱い遺伝子を残し、弱者が生みだされるのも世の常だった。自然界で淘汰される、絶滅を危惧する種族の、生存本能ともいえるのかもしれない。 「だが人間の場合は確かにまれだ。核種胎から人の子が生まれる確率は、わずか五パーセントほどだろう」  核種胎を宿せるほど生命力が強いなら、自らの遺伝子を後世に残しても不思議ではない。だがシーデリウムに置いて人間は蔑むものだ。  もし獣人の国で人の子が生まれてしまったら。その子は早々に手放され、その多くは人間を扱う娼館に売られる運命にある。 「だいいちに、獣人と人の子では、成長速度が違うのだ」  獣人はおよそ二週間で生まれてくる。しかし人間の子は二ヵ月かかる。宿ったのが人間とわかれば、腹の中で育てずに堕胎させる獣人もいた。  非情な真実にルトたちは言葉さえ失う。頭のてっぺんに流れる血液が、さぁっと滝のように勢いよく水面を打つようだ。脳まで巡るはずの血液は勢いを取り戻せず、眩暈までしてきそう。

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