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顔色悪く、今にも倒れそうなルトたちには目もくれず、魔術師はさらに続けた。
「シーシェル色の腹が宿したのはどの種族であるか、間違いなく獣人の子であるかを証明する必要がある。父親の獣人へはもちろんのこと、陛下にもご報告せねばならん」
魔術師は、手慣れた作業をこなしているだけだ。罪悪感の欠片すらみせない。長い歴史のなかでどれほどの人間が、孕み腹だと虐げられたのか。今エミルを襲っている事実は、これから確実に起こるルトたちの未来だった。
遠くから、のたりのたりと聞こえないはずの足音が迫りくる。いっときの淫虐がすめば、きれいに洗い流せる体液などでは終わらない。
忌まわしい種をこの身の内に宿し続け、なおも自らの肉体で育てなければならないのだ。いずれ訪れる残酷な状況は決してルトたちを逃がしはしない。
青白くうつむくエミルは、魔術師に連行されるように静まりかえる寝所から姿を消した。
あまりの状況に思考がついていかず、そして現状を認めたくはなくて、エミルが連れられてからルトは力尽きて棒立ちになる。
なにも聞きたくないと閉ざす耳が、それでもくぐもった泣き声をルトに届けたのは数分が過ぎたあとかもしれない。消沈した少年のひとりが錯乱したようにぶるぶると震えていた。日に焼けた小麦色の手で頭を掻きむしっている。
「もう嫌だ……っ、もう、こんなのっ、なんでおれが獣人なんかの子をっ」
ただでさえ苦痛の日々が続いている、これ以上の辱めには耐えられない。赤茶色の髪を抱えた少年がその場でうずくまった。大声で取り乱し、髪の色と同じ、赤みがかった黒い瞳から涙をこぼしている。
連続して続く、しゃくりあげる呼吸に喉を詰まらせたのか、短い息が少年を襲いだした。ひっひっと立て続けに全身が激しく震え、上下する肩の動きが異常に大きい。座っていることさえできないと、うずくまる身体がどさりと傾いた。
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