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「たぶん、もう楽になったと思う。ベッドに寝かせてあげよう。あの、手伝って、もらってもいい……?」  今までルトは、エミルとしかほとんど交流を持たなかった。虐げられる境遇をひたすら嘆き、他の少年を気遣う余裕などなかったからだ。そして目の前にいる少年たちも、ルトのことなど気にできる心境ではなかっただろう。  互いの名前さえ知らない関係だ。それでも、目の前の少年は純粋な眼差しをルトに向けた。 「うん、もちろんいいよ」 「俺が手伝う。俺のほうが力はありそうだ」 「ぼ、僕だってできる」  数人の声がほぼ同時に返ってくる。こうしてルトが手を伸ばせば、すぐさま引っ張ってくれる優しい腕が、いくつもあった。それはルトに温もりを与えてくれたようだった。  絶望しかない環境で、わずかな光を見た気がして不意に鼓動が跳ねる。どんなに汚されても虐げられても、失われない清らかさ。それに、ルトは泣きそうに瞳を歪ませた。 「ありがとう」  いうことを聞くだけの操り人形なんかじゃない。心のない道具じゃない。自分たちはここで生きている。ルトだけじゃなかった、みんなが歯を食いしばりながら耐えていた。  身体の奥底で拍動を感じ、安らぐ息づかいを感じられる。もしかしたら、それは希望というのかもしれなかった。  この暗闇でようやく見つけられた、仄かなともし火だ。自分の胸にともった灯を絶対に消したくはないと、ルトは心に刻む。たとえそれが今にも消えそうな、おぼろげな光だったとしても。 ***  魔術師に連れられたエミルは、ルトたちの眠る寝所に戻らなくなってしまった。ずっと寄り添うエミルがいなくなった。それはルトを取り巻く環境が、大きく変わったひとつだった。

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