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エミルは今、後宮の敷地内に建つ、朱華 殿に身を寄せている。
ルトはこの日、エミルに会おうと庭園を通り抜けようとしていた。朱華殿はこの先にある。後宮の庭園はいたるところが華やかだ。ヌプンタにはない草花を見るのは好きだったが、どこで獣人に出くわすかわからない。もし獣人に見つかったら……そう思うと、無意識に足が急いてしまうのだ。
獣人が孕み腹を望めば場所を問わず魔の手が伸びる。人通りがある廊下でも、清々しい青空の下でも。後宮の敷地で飼われる孕み腹は、求められたらどこにいようとこの身を明け渡さなければいけなかった。
ラシャドがいつも使う繁殖用の部屋は少ないから、余った二十一人は、必然的に部屋以外での性交を強いられる。ときどき身を持て余す獣人が部屋に乱入し、そのまま複数から供用で使われることもあった。
部屋には番号が振られ、魔術師が使用中の情報を流していたのだと、後になって気づいた。使用中の部屋番号か孕み腹か、もしくは両方かの情報を。ようやく解放される手前で、新たな獣人が扉を開ける。そのときの失望感は底沼だった。
周囲を気にして移動していたら、豪快な獣人の話し声が届く。ルトは咄嗟に身をかがませて、植木の茂みに隠れた。
「おい聞いたか? ここで飼ってる孕み腹が、ようやくひとり種を宿したってよ」
「へえ、そりゃめでたい。第一号はどこの種族なんだい?」
「牛族のオーブリーらしい。すでに陛下にも報告されて、孕み腹はこの先の朱華殿にいるってよ。ちょっと行って、遊んでみるか?」
物騒な物言いに、エミルを案じたルトは声を上げそうになった。しかしすんでのところで口元を押さえて息をのむ。気づかれなかっただろうか、ルトはさらに背中を丸めた。身を竦ませていれば、渋る声が制止を促した。
「やめときな。子を孕んだなら最低二週間は、父親が毎日通わなきゃなんねぇんだ。自分のモンに他所の匂いがついてたら、どの獣人でもいい気はしないさ。持ち主の許可はもらってないんだろ?」
トラブルのもとだ。そう諭された獣人がつまらなさそうに唾を吐いた。
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