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 たとえ魔術師の治癒があっても回復が間に合わなければ命はない。出入りの激しい後宮を管理する獣人にとっても、慣例となった乱交は生死の選別が手っ取り早くできて都合よかった。  皇帝はヌプンタから運ばれてきた人間に無関心だ。大広間で壮絶な地獄絵図が描かれようが黙認するのみ。そんななか、あれを見つけた。数十人いる人だかりで唯一あれだけが目に留まったのだ。  最初は面白い奴がいる、そんなところだったと思う。  たいていの奴は、他人を蹴落としてでも自分だけは助かろうとするもの。それは人間だけにあらず獣人でもだ。だというのに、ひとりの少年は必死で動けない子どもの手を引っ張って逃げていた。  哀れな獲物が獣人に追いかけられ、取り乱し、泣き叫ぶ。どれもこれも狂乱して、逃げ惑うばかりでたったひとりだけ、他人の身を優先する少年がいた。固まって自力で動くことさえできない子どもを、黒髪の少年が守っていて目を引いたのだ。  気が乗れば乱交に加わるつもりだったラシャドが、ただひとりの少年に興味をもったのはそのときだろう。決して逃れられない状況で、泣くしかできない子どもを逃がそうとする。自分の身を差し置いてまで。  小さな少年が懸命に守るものは、自力で我が身も守れないほど弱いものだ。足手まといにしかならない。放っておけばいいものを。  立ち尽くすだけの能のない存在など、飢えた獣の前では格好の餌食だ。少年に手を引かれなければ子どもはあっけなく、獣人に襲われていただろう。しかし少年は最後まで子どもの身を案じていた。ラシャドに組み敷かれながらも。  不思議だった。なぜラシャドを恐れず、自分の身を顧みず、なんの役にも立たない子どもなんぞを生かすのかと。  じっくり物色していたせいで乱交に乗り遅れ、皇帝に足蹴にされたのは不本意だったが。  容易く手に入った肉体は、最初こそ窮屈で痛みを伴うものだった。だが無理やり、最奥まで突きあげれば、ずぐずぐと奥深くまで広がるのだ。ラシャドの長い陰茎を包むように、すっぽりと咥えこんだ。狭い肉道が太すぎる剛直をわななきながら受け入れて、血が出たのも良かったか。

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