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 毛を逆立てて盛大なため息を吐き捨て、ラシャドは執務殿を大股で抜け出す。豪華な両開きの扉を閉める瞬間、三者三様の笑い声が響いたのは聞かないことにした。 ***  ラシャドにはああ言ったが、グレンは本気で彼の孕み腹を探す気はなかった。だいいち孕み腹の顔も名前も知らないし、多忙を押してまで、わざわざ後宮の情報を魔術師に問いたいとも思わない。  皇帝と同様、グレンも孕み腹に興味はないのだ。いつも澄ましたラシャドの反応が珍しく、からかっただけで。  二日後、グレンはツエルディング後宮の周辺を見回っていた。一日中解放される後宮には多くの獣人が行き交っている。人間の姿は少なく、ちらほら空の下で犯される少年がいる程度だ。  だが一応は、王宮の後宮である。敷地は広く、手を抜けない性格のグレンはあちらこちらへ忙しなく移動した。いつの間にか、誰も近寄らないと思われた厨房付近にまで差し掛かっていたらしい。  さすがに人の気配はしない。別の場所に移ろうかと踵を返したとき、外に設置されたゴミ捨て場でひとりの少年を見つけた。厨房で捨てられた、いくつかの袋を覗いている、どうやらゴミ漁りをしているようだ。  食べ物を探しているのかと思ったが、懲罰でもない限り毎日食事が与えられているはず。仮に懲罰中の孕み腹ならば、外を自由にうろつくなどできない。  たいてい後宮の地下にある懲罰部屋か、素っ裸にされて鎖で繋がれ、性奴隷として慣らされるか。だがあの少年は、見る限り調教の最中とは思えなかった。  ではなぜ不要なゴミをひっくり返すのか。なんとも不可解な行動に、グレンは気づかれないよう少年の行動を監視した。 「あった!」  少年の嬉し気な声が聞こえた。白い腕が手にしたのは缶詰だ。肝心の中身がない使い終わったゴミ。空き缶を二つ見つけた少年は、散らかした余分なゴミを片付けいく。グレンはますますわからなかった。ただの空き缶だ、なんのためにそんなものが欲しいのだ。  ただ破棄するだけのゴミを、少年があまりにも嬉しそうに手にするものだから。グレンは思わず少年に話しかけた。 「君、その空き缶をどうするんだ?」  小柄な少年に近づきながら声を出すと、間近に迫る少年がびくりと目に見えて震えた。全身を小刻みに震わせて細い身体をグレンに向けてくる。  低く伏せた黒髪が流れ、怯える瞳が露わになった。人間では珍しい、透明度の高い紫水の瞳だ。陽の光を吸いこんだ瞳を、グレンは純粋に綺麗だと思った。

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