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呼吸を乱し始めたルトに気がついたのだろう。突起を弄っていたラシャドの手はいつの間にか止まっていた。ルトの正気を促すように、分厚い手のひらが、強張るルトの頬をぱちんと軽く叩く。
「おい、とんでんじゃねぇぞ。どこのどいつに何されたか知らねぇが、俺はそんな趣味はねぇ。今お前を抱いてんのは俺だろう。他の奴らと、重ねてんじゃねぇぞ、気に食わねぇな。俺を見ろ」
「は――あ、っ」
真上から、漆黒の瞳に見下ろされる。大きな黒い影の背後には、白い天井があった。そうだ、ここは無限に広がる青い空の下じゃない。美しい大地も風もすべてはまやかし。夢物語などあるはずなければ、歪んだ獣人たちもいない。
壁に囲まれた室内で、砂利のないベッドの上で、相手をするのはラシャドひとりだ。ルトの心が生きている空間だ。ほんの少し、ルトの強張る力が抜けた。
ラシャドは気が散ったのか、もうルトの突起は弄らなかった。分厚い手のひらは、浅い呼吸でへこへこ動く薄い腹に添えられる。念入りに探り揉まれ、ルトは、そこにしこりのようなものができていると気づいた。
「な、に……?」
いつの間に腹にしこりができたのか。明け方ラシャドに抱かれたときはなかったと思う。いつもなら柔らかい腹部だが、その部分だけが微かに硬くなっている。輪郭をなぞって圧迫され、しこりの大きさと形を確認されている。
「な、なに? それ、なに……っ?」
「じっとしてろ」
戸惑うルトを制止してラシャドが大きな体躯をずらす。吐息を紡ぐ、ラシャドの深い声がルトの臍のあたりで振動した。熱い息を直接肌に感じ、端正な顔を密着される。そしてルトの臍の下――いや、正確にはしこりの部分を、くんくんと嗅がれた。
最近よくされる行為だ。それに何の意味があるのかなんて考えもしなかった。
正常な身体にはないはずのしこり。そしておそらく、しこりから微かに香るだろう匂い。体内に浸透している核種胎の実。
ルトの思考が散らばった欠片を拾い集める。まさか。
「ぁ」
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