103 / 367

第十話 巡り合い

「ルトーっ! そっち、そっちいったよ! ユージンにとられたっ」  パーシーの大声に反応して、すぐさまルトは背の高い髪を追った。 「わかったっ」  エミルが過ごす朱華殿の、外灯の明りがともる時刻。本当なら夕食を済ませて寝所に戻っている時間だ。獣人に呼び出されていないルトはパーシーたちと一緒にエミルの宮殿を訪れた。  二日前は、体調が悪くてエミルに会いに行けなかった。一夜を置いて、昨日の夜に朱華殿へ顔を出したもののパーシーたちと都合が合わず、エミルと中庭を散策するだけに留めた。しおれた花をいくつも見かけ、世話をしたらそれきりになった。  そして今夜やっとみんなで集まれている。欝々とした気持ちを少しでも晴らそうと、暗闇に紛れ、それぞれが無心で駆けていた。  ルトを中心に遊びに混ざるのはパーシー、それと、ラザとユージンだ。朱華殿の敷地内にある広い庭で、二対二に別れて缶蹴りだ。  右と左に長い距離をとって、一本の線を土に描く。中央に描いた大きい丸から、ひとつの缶を蹴飛ばして、相手の線まで缶を飛ばしたほうが勝ち。二人で一組のコンビなので、線まで飛んでいかなかったらいつでも相手の缶を奪える。  細かいルールも立派なコートも道具もない。くたびれた空き缶を追いかけて、ひたすら蹴飛ばすだけの遊びだが、意外と体力がいる。シャド村にいたころルトはこうして、子どもたちの遊びに加わっていた。  身体を動かすのには慣れているので運動神経はいいほうだと思う。だがルトとコンビを組むパーシーは、あまり得意ではないらしい。  男前に加え頭脳派でもあるユージンの攻撃をかわしたルトが、パーシーにかこんと缶を蹴って渡す。しかしすぐに、すばしっこいラザに奪われていた。  可愛い見た目に反して勇ましいラザは、ルトと同じ十四歳で活発な少年だった。外灯で光る金茶の髪が、ラザをさらに明るくさせていた。 「やり、おれの勝ちだ!」 「あーっ、惜しいっ。またとられたぁ」 「ってぜんっっぜん惜しくないからぁぁぁ! パーシー弱すぎだしぃぃっ」  器用に缶を奪ったラザが絶叫すると、パーシーが頭を抱えてしゃがみこんだ。その間にラザはユージンに缶を渡し、ルトが追いかければまたラザに渡る。十五歳というユージンは、勇ましい性格のラザと、息がぴったり合うらしい。

ともだちにシェアしよう!