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「あ……」  二日前、空き缶をくれた獣人だった。琥珀色の髪と、蜂蜜のように甘い瞳。丸い耳と長い尻尾がどことなく柔らかな。  ルトを、初めて見逃してくれた豹の獣人だ。優しい風貌の、深みある蜂蜜色の瞳がルトをしっかり捉えてきた。外灯で光る琥珀の髪が眩しくて、目を細める。  どうしてこんな時間にここにいる。驚きに視線を上げたルトの顔には、明らかな困惑があっただろう。瞬間目があった獣人は、差し伸べた手を引っこめて、居心地悪そうに口を開いた。 「その……君が、急に倒れたから。姿を見せる気はなかったんだが」  ルトを掴まえてどうこうしようという気はない。手が咄嗟に出てしまったのだと言葉尻から伝えてくる。人間とあえて距離をとる獣人に、ルトは幾分か身体の力を抜いた。ゆっくり立ち上がり獣人と向き合う。  小さなルトを見下ろす、蜂蜜色の瞳を正面で見返した。手を出す気がないと知っていても、やはり緊張してしまう。 「いつから、ここに……?」  ルトが気づかなかっただけでずっといたのだろうか。わずかに目を伏せて、小さく疑問を口にする。すると獣人は、ばつが悪い顏をした。 「その……どうしても気になって。ゴミでしかない、空き缶の使い道が」 「空き缶」  人間のルトよりもゴミの空き缶が気になるか。ルトはついオウム返ししてしまった。あっけにとられていたら反応が鈍くなった。固まったルトを見て嘆息した獣人が、続けて口を開いた。 「本当に姿を出す気はなかった。前にも言ったが、俺は孕み腹に興味はない。ただ、気になって。今日やっと、あれの使い道がわかった」 「え」  苦笑をもらした獣人を、目を丸くしてまじまじと見返す。まるで空き缶をくれた日から、ルトの行動を見ていたような言い草だ。  遠慮ないルトの視線を受けた獣人は、怒る素振りもなく苦笑を深めた。静穏な夜にぴったりな、凪いだ瞳のほほ笑みだった。 「君をずっと見ていた。君は少しもじっとしていないから、見つけるのはたやすい。たった二日の、空いた時間が許したあいだだけだから、そう多い時ではないが」 「どうしてそんなことを」 「どうして、だろうな」  本当に、空き缶の使い道を知るためだけにそんな手間をかけたのか。獣人の言葉に驚きを隠せないルトの返答に、獣人は言葉を濁す。もしかしたら彼自身も、はっきり答えられないのかもしれない。思案顔で顎を擦り、琥珀の豹は考えこむ仕草をした。  しばしの沈黙が流れ、気を改めたらしい獣人が、取り留めなくルトに尋ねた。

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