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 人間は道具だと、悪だと言いきる獣人に、何をどう言ったところでルトの心は届かないのかもしれない。それでも悔しさに顔を歪めながら、ルトは精いっぱいの言葉をぶつけた。  獣人はまたしばらく黙りこむと、怒る様子もなく意外なほどもの静かに、蜂蜜色の瞳を細めた。 「それは……、そうかも、しれない。少なくとも今日、君と遊んでいた人間たちは、陰鬱ではなく楽しそうに見えた。人間が、あれほど明るくはしゃぐ声を……、初めて、聞いたよ……。君の影響か」  どうしてか、獣人の言葉尻が優しく響く。ルトははっと息をのんだ。獣人は瞳の色をさらに深め、幾多の星が光る夜空を見上げる。そして気を入れ替えるように、もう一度ルトをはっきりと見た。 「名を……、君の名を、聞かせてくれ」 「……ルト」 「ルト。かわいい名だ」  ルトは、かつてヌプンタで使われていたパルトという言葉をもじったと、村長が教えてくれた。調べたら、小さな、という意味だった。シーデリウムに支配されるようになり、獣人の言葉が主流となった今では古代語として扱われる言語だった。  村長のような身分が高い人間なら学識のため習えるが、ルトみたいな孤児では知る由もない言葉だ。  単純に小さい赤子だったから名づけたのかもしれない。それでもルトにとっては、村長が考えてつけてくれた大切な名だ。ルトは自分の名が好きだった。ここで獣人に、穏やかに呼ばれるなんて考えもしなかった。  獣人に――シーデリウムに来てから、名を尋ねられたのは初めてだった。

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