116 / 367

11-(2)

 しかし皇帝には子がおらず、早く子を作れと口酸っぱく言われていた。他国に劣らない側妃たちの皇居があるのに、後宮へのお渡りが少なすぎると、日々臣下にせっつかれる始末だ。  獣人同士が核種胎を使えば、人間のように短期間で孕まずとも、数年ほどかければ子を成すことが多い。雌の獣人ならば核種胎を使わずとも子を成せる。  まだ嫡子はいないが、皇帝がその気になれば遠からず子はできるだろう。ゆえに気が進まない皇帝をその気にさせるため、臣下は子づくり期間を設けるとか、尊大な帝王と釣り合う、見目麗しい若い獣人を新たに娶らせるとか、気合いばかり入れていた。  夜が来るたびにお膳立てされるから、皇帝はかえって辟易しているのだが。だが皇帝とて活力がみなぎる獣人王だ。  側妃へ通わずとも、気に入った獣人を宮廷の外から召すこともあるが、一度でも皇帝の手付きとなれば、皇居にある後宮へ囲われてしまう。後宮のかしましい争いごとは気がそがれるといい、ときにはグレンを同伴して、お忍びで王宮を抜け出すこともあった。グレンの名を騙り正体を隠しての、一夜限りの秘め事だが。  閨の相手は腐るほどいる身分なうえ、ただでさえ皇帝は人間を厭う。わざわざ孕み腹を使って、性欲を発散させたい獣人の気が解せないのだろう。グレンとて皇帝同様に思っていた。昨夜ルトに会うまでは。  皇帝がなぜこれほど人間を毛嫌いするのか。根底にあるわだかまりを正確に把握するのはグレンだけだ。ゆえに、グレンは自重する。孕み腹と距離を置き、常に冷静であるようにと。孤独な王を支え続け、共に歩むと決めたから。ときに熾烈な皇帝への理解を示し、決して裏切らないよう。  そう思うのに最近は皇帝に仕えながら、一方で夜の訪れを待ち遠しく感じてしまう。  ゴミ漁りをする姿を見つけ純粋な興味でルトを探った。簡単に手折られるほど儚くみえ、芯がぶれない凛々しさを持つ人間の少年。昨夜名を交わした小さな姿が、今もなお心に残る。  獣人に怯えて震えるくせに、決して屈しない強さも。小さな身で堂々として、道理を曲げない清廉さも。半透明の綺麗な瞳を上気に潤ませて、敵わぬ相手に盾突く、澄んだ怒りに目を奪われた。

ともだちにシェアしよう!