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凛と伸びる少年はどの花よりも綺麗だった。時折見せる思いつめた表情も、友と遊べば咲き誇るように満開の笑みになる。
人間に無関心だった、頑なグレンの心をこれほど動かす孕み腹はいなかった。孕み腹を使おうという気はないが、グレンもここ数日はツエルディング後宮を時間が空けば覗いている。
魔術師に確認するまでもない。夕刻過ぎに朱華殿の周りを見張っていれば、ひょっこりルトが現れるのが可笑しかった。獣人の出入りが少なくなる時間を狙っているのだろう。頭の良さも垣間見えて、グレンは知らず、口元に笑みを浮かべた。
「――い、聞いているのか、グレン。何をにやついている」
皇帝の張りのある声音にグレンはどきりと気を引き締めた。皇帝の前で失態を晒してしまう。これではラシャドを笑えないなと思いながら、グレンは皇帝を仰いだ。
「考え事をしていて。もう一度、お聞かせを」
聞いていなかった非礼を詫びて次の言葉を待つ。たいして面白くもなさそうに、皇帝が命じた。
「ラシャドをここに召せ。孕み腹の宮殿を与える」
「仰せのとおりに」
椅子から立ちあがり、皇帝の前で敬礼を取る。執務殿に備わった飛報石でラシャドを呼び出した。
一般の獣人ならば、とてもじゃないが帝王の住まうエスマリク宮殿には近寄れない。与えられた宮殿の中庭で、勅命を携えた臣下に言い渡されて終わりだ。
だが精鋭兵ともなれば話は別だ。帝王を守る身分には高い地位が与えられ、皇帝から直接、孕み腹の宮殿を賜れる。
密かに頬を緩めたグレンが動けば、皇帝がやりかけの書類に決裁をつけていく。いくつかの政務を手早く片付け、手を止めた皇帝が、流れ作業に一区切りつけた。
そうこうしていれば案の定ラシャドはすぐに飛んできた。普段は召集など屁とも思わないくせに、どことなく息さえも弾ませている。よほど慌ててきたか。
隣続きの控えの間に待機する書記官を、皇帝が居座る殿内へ通し、高揚感をまとうラシャドを執務殿へ迎え入れた。
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