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孕ませると決めてから、あの瞳を毎日見ていたはずなのに、透明度の高い瞳に初めて見ほれた。透きとおった涙に包まれた半透明の紫水の瞳は、ラシャドが知るどんな高価な宝石よりも煌めきを放っていた。
従順だったはずの人形が、生命の息吹に触れた瞬間を見たような。そんな、衝撃を受けた。霧が晴れたようにくっきりと、ラシャドの視界に紫水の瞳が浮かび上がった。
行為中のルトを想像しただけでラシャドの気が昂ぶる。アトラプルム館で魔術師に見られながらの性交は、混乱するルトをさらに疲れさせただろう。核種胎を枯らさないよう、子が生まれるまでほぼ毎日子種をかける必要があるといっても、一日に何度も注ぐ必要はない。
今夜は紫苑殿に移った姿を認めるだけで、休ませようと考えていたのだが。このぶんだとできそうにない。せめてこれまでになく優しく抱いてやろうと、昂ぶる心に決めた。
意識せず歩調が速くなる。あっという間に紫苑殿に辿り着き、洋館を連想させる建物を見上げた。二階の一室に明かりがともっているのを確認して、笑みを深める。ルトはあの部屋にいる、おそらく寝室だ。
中庭を過ぎ、段差のある門口を跨ぐ。重厚な玄関の扉を開き吹き抜けのホールに入った。広々する豪華な居間を越して二階へ進む。明かりがともっていた部屋のドアを、ためらいなく開けた。
ドアが開く気配に、室内から緊張したか細い声が聞こえた。
「だ、誰……」
予想どおりだ。紫水の瞳をまん丸に見開いて不安げに揺らしている。ラシャドと目が合うと、大きな瞳は何かに耐えるようにくしゃりと歪んだ。
ルトは広い寝台で横にもならず、隅っこで膝を抱えていた。身の置き所がなさそうに、小さい身を縮こませている。構わずラシャドは寝台に向かった。
「い、いや……」
「ここには俺しか来ない。子が生まれるまで、お前に触れるのは俺だけだ」
「や……っ」
明言すれば泣きそうな面持ちでルトが寝台の上を後ずさりする。逃がす気はなかった。緩やかだった足取りを一気に詰める。細い手首が、シーツをさまよい、きゅっと掴んだのが見えた。
自身の詰襟を片手で緩め、もう片方で逃げる手首を掴みあげる。そのまま強引に押し倒し、寝台に縫いつけた。
「ぁう……っ」
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