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「んふっ……」  逃げようとする頬を手のひらで制し、温かな丸い頬の内側をでろりと舐めあげる。先を尖らせた舌で頬っぺたの肉を弾圧的につつけば、薄い頬は制する手のひらさえ押し上げてきた。硬い上のあごも柔らかい喉の奥も、下あごも、歯列や歯茎の形も味わう。互いの唾液が隙間なく混ざり合った。  飢えて飢えて飢えて。ようやっと甘い果実を口に含んだような感覚に、脳髄が蕩けそうだ。もしかしたらこれを渇えるというのかと、ラシャドは意識の端で感じた。  ルトを見つけてから幾度も身体を重ねてきたが、口づけを重ねたのは初めてだった。もっと貪りつきたくなって、かぶりつくように深く唇を重ねる。 「んーっ、んんっ、ふ……っ」  あますところなく堪能すれば白い胸がせわしなく喘ぐ。細い指が藻掻き、頬に添えたラシャドの指を剥がそうとした。激しく息を乱して眉根を寄せて、がむしゃらに丸い顔を左右に振ってくる。  滴る唾液を飲み損ねたか、喉奥で小さくむせた。口づけには慣れていないらしい。逃げる顔を追わずにいれば、互いの唇はすぐに離れた。  溢れる唾液をたらたらと零し、荒い息をつくルトを真上から見下ろす。ルトはただの孕み腹だ。それ以外であってはならない。これに触れるたびそうやって扱ってきたし、孕み腹以上の感情などなかったはずだ。ツエルディング後宮ではそうでなければならない。  これは、国中の獣人たちの使い腹。いずれラシャド以外の子種も宿すだろう。あらゆる種族の慰みものだ、それ以上でもそれ以下でもない。だとしたら、この渇望はなんだ。なぜ離れた唇を名残惜しいと思う。  吸いつきすぎて、赤く膨れた唇が唾液に濡れる。嚥下しきれない透明な体液が、小さな口角から細い糸を引いて垂れた。ラシャドとルトと、口の中で混ざり合った互いものが。  潤む紫水の瞳がラシャドを真下からちろりと見上げた。ずぐん、と下半身が重く滾たぎった。体内で蠢く熱が一気に下腹へ集中する。 「くそ……っ」  欲望のままに突きあげたい、しっとり絡みつく肉壁に身を沈めたい、ひとつに繋がり孕ませて――独占、したい。そんな、許されない想いを抱いた。  たとえばルトの身を置く場が王宮にあらず街中の娼館だったなら。ラシャドは身請けをしたかもしれない。だがルトは皇帝陛下の後宮で飼われる駒だ。その身を自由にできるとすればシーデリウムの帝王のみ、ラシャドではない。

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