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 ラシャドが変わったのも優しく触れるのも、きっと気まぐれに過ぎない。子が生まれてルトに飽きたら、今までどおり突き放されて終わりだ。  向けられた言葉をうのみにして、与えられる温もりに心まで許し受け入れたら。それでまた大勢で、蹂躙されて見放されたら――ラシャドを信じるなんてできなかった。 ***  寝台の横にある置台の上で、飛報石がけたたましい音を立てた。ラシャドの腕で眠っていたルトは一気に夢から戻された。室内はまだ薄暗い。大音量に、起きようと身動きすれば、背中から回る逞しい腕が阻止してくる。 「まだ寝てろ。俺の呼び出しだ……」  谷奥の竜が悲鳴をあげて逃げ帰りそうな騒がしいなか、寝ぼけた声が後ろに落ちる。この状況で寝られるのはラシャドくらいだ。そう思いながら、ルトは大人しく寝台に裸体を沈めた。  けたたましい音と勝負するように、背後でラシャドがばんっと派手な音をたてる。飛報石に指紋を押しつけて、呼び出し音を止めたのだろう。単に報せを伝えるだけでなく、交信もできる魔術具でもあったのだと理解したのは、紫苑殿に来てからだ。  ルトたちの後宮では魔術師を呼ぶときに使っていたがそれだけだった。孕み腹が魔術師から呼び出されることもなければ、飛報石で会話をしたこともない。おそらく魔術師たちが、一方的に通信を切っていたのだ。  身動きせずに瞼を閉じていれば、飛報石から低い声がこだました。 『朝早くに申し訳ない』 「いいから用件を言え」  ぎしりとベッドを揺らしてラシャドが身を起こす。両腕を伸ばし、軽く筋肉をほぐしているのがわかった。寝起きのだるさを隠さない声音に冷静な声が応える。交わされた内容にルトは慌てて飛び起きた。 『朱華殿の孕み腹ですが』  エミルのことだ、思わず声を出しそうになり咄嗟に開いた口を閉じる。ラシャドがちらと、視線だけをよこして話を続けた。 「今日か?」 『はい、今から二時間後に執り行います。皇帝にはすでにお伝えしました。朱華殿の孕み腹が出産を終えると同時に、奉祝の儀に移ります』 「わかった。準備しておこう」  声の響きにより色が変わっていた飛報石が、ただの透明になる。通信が切れたのだ。ルトはすかさずラシャドを見返した。 「朱華殿の孕み腹って、エミルでしょう?」 「そうだ」

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