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戸惑いを浮かべるルトに動じず、ラシャドが頷いた。
「お前がずっと気にかけていたガキが、今から二時間後に出産する」
出産は、魔術師の管理のもと行われると聞いた。獣人の子種は核種胎の力で保護し、できる限り小さく成長させている。魔術で孕み腹の骨格を広げ、苦痛は最小限に取り除き、かつ形成された産道は短い。
ルトたち人間は数時間かけてお産するが、核種胎で成った子はほとんどが十分もあれば誕生するらしい。どうしても骨格を通らなければ腹を裂いて子を取り出すとも聞いたが、魔術師の治癒ですぐさま守られるという。
「何も心配はねぇ。それより出産のあとの、奉祝の儀のほうが長ぇくらいだ」
「奉祝の儀?」
「ああ。獣人の誕生を祝う儀式だ」
皇帝陛下や臣下たちが、出産を迎える宮殿に集まり獣人国の繁栄を祝う。とうぜん皇帝の御子ではないが、一応は、王宮内で行われる出産だ。
王宮の行事として扱われ、皇族と無縁の獣人が父親でも、国に住まう獣人族のひとりとして身分は関係なく実行される。
「一人目の出産だけだがな。二人目からは、魔術師と父親だけが立ち会う」
式典は、孕み腹全員の出産に行われるわけではないらしい。ツエルディング後宮全体で、初めて誕生した獣人の赤子だけが儀式の対象になる。
皇帝が顔を出すなら付き従う従者も大勢いるはずで、警護も大規模になり物々しくなる。精鋭兵に配属するラシャドは、儀式に駆り出されるのだ。
少々げんなりした様子でラシャドが言い終える。ここぞとばかりルトは声を張り上げた。
「俺、俺も行きたい。エミルのところに行くのなら、俺も連れて行って」
「あの朱華殿のチビが、そんっな大事かよ。だいたいなぁ、他のガキどもも……」
「ほかのガキ?」
つい口にしてしまったという体で、何かを言いかけたラシャドが口をつぐむ。ルトが聞き返しても、続きを言う気はなさそうだった。
眉間にしわを寄せ、見るからに渋面を作っている。ともすればなぜか睨まれていると感じる。しかしめげずに、ラシャドの続きを諦めて、ルトは重ねてお願いをした。
「どうしたら連れて行ってくれますか? 一緒に行きたい。あなたの傍を離れないから」
必死にラシャドの寝乱れた夜着を掴む。目を見張ったラシャドは、悪戯を思いついた笑みを浮かべた。
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