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「優しい力だ。ルトによく似合う」  穏やかな顔つきになってグレンが口ずさむ。しばらくの沈黙のあと、琥珀の豹は自分の感情を抑えつけるように口火を切った。 「行かなければ。あまり遅くなると、本当に脱走したと思われて、君は拷問を受ける。そうなれば俺が弁明しても止められない。それに、ラシャドが君を心配しているはずだ」 「そんなことない」  さっきから、グレンはなぜ、ラシャドがルトを気遣っていると思うのだろう。ルトの咄嗟の反論はグレンの苦笑を誘ったよう。 「ルトはラシャドが嫌いか?」  二度目の問いにルトは今度こそ頷いた。グレンなら素直な自分をさらけ出してもいい気がする。ルトは頬を膨らませた。好きか嫌いか、どちらかしか選べないと言うのなら。 「嫌い、です」 「そうか、でも、ラシャドは君を……」  グレンは歯切れが悪く口ごもった。続かない言葉を不思議に思い、首をかしげてグレンを見あげる。ルトの視線から、蜂蜜色の瞳はわずかに顔を逸らした。 「ラシャドは君を、おそらく……、大切に、思っているよ」  言いにくそうに口元を押さえたグレンが視線を落とす。つられてルトも視線を投げれば、真横からぽつりと呟かれた。 「本当は……ラシャドじゃなく陛下に君を探せと命じられたとき、俺は内心で喜んだ。君に会い、また話を聞けると」  囁かれた穏やかな声音はルトの心にすとんと落ちた。ルトも、奉祝の儀でグレンを見かけたときから会いたかった。会って、話をしたかった。けれどそれを口にしてはいけないと思っていた。 「……すまない、今のは忘れてくれ」  ルトは沈黙を保ったまま、ただ穏やかな声音を受け入れた。確かにそこにあるのに決して重なることはない。いつまでも横に並ぶ、異なる二つの影を眺めながら。

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