149 / 367
13-(12)
「優しい力だ。ルトによく似合う」
穏やかな顔つきになってグレンが口ずさむ。しばらくの沈黙のあと、琥珀の豹は自分の感情を抑えつけるように口火を切った。
「行かなければ。あまり遅くなると、本当に脱走したと思われて、君は拷問を受ける。そうなれば俺が弁明しても止められない。それに、ラシャドが君を心配しているはずだ」
「そんなことない」
さっきから、グレンはなぜ、ラシャドがルトを気遣っていると思うのだろう。ルトの咄嗟の反論はグレンの苦笑を誘ったよう。
「ルトはラシャドが嫌いか?」
二度目の問いにルトは今度こそ頷いた。グレンなら素直な自分をさらけ出してもいい気がする。ルトは頬を膨らませた。好きか嫌いか、どちらかしか選べないと言うのなら。
「嫌い、です」
「そうか、でも、ラシャドは君を……」
グレンは歯切れが悪く口ごもった。続かない言葉を不思議に思い、首をかしげてグレンを見あげる。ルトの視線から、蜂蜜色の瞳はわずかに顔を逸らした。
「ラシャドは君を、おそらく……、大切に、思っているよ」
言いにくそうに口元を押さえたグレンが視線を落とす。つられてルトも視線を投げれば、真横からぽつりと呟かれた。
「本当は……ラシャドじゃなく陛下に君を探せと命じられたとき、俺は内心で喜んだ。君に会い、また話を聞けると」
囁かれた穏やかな声音はルトの心にすとんと落ちた。ルトも、奉祝の儀でグレンを見かけたときから会いたかった。会って、話をしたかった。けれどそれを口にしてはいけないと思っていた。
「……すまない、今のは忘れてくれ」
ルトは沈黙を保ったまま、ただ穏やかな声音を受け入れた。確かにそこにあるのに決して重なることはない。いつまでも横に並ぶ、異なる二つの影を眺めながら。
ともだちにシェアしよう!