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「逃げただろうが。俺が目を離した隙によ。違うってんなら、なんで勝手にいなくなった」
「それは……、エミルが」
「またあのチビか!」
大声で唸り、吐き捨てたラシャドに小さく頷く。間近でルトを突き刺しそうな視線には、まだ怒りがこめられていた。理由を言わないと納得してくれそうにない。ルトが悪いとわかっていても、あまり言いたくなくて口を閉ざす。
「言え。あのガキがなんだ。言わねぇなら、抜かずにまたするぞ」
ラシャドの無茶な要求にルトの唇がひきつった。なおも体内ではラシャドの止まらない射精が続いている。解放されるどころか繋がった体勢で、また始めるという。
底沼なラシャドの精力に犯し殺されそうだと思う。観念して口を開いた。
「エミルは、本当は……死ぬはずだったって、言われて。完成形に、なるときに」
「はぁ?」
訳がわからないという顔で、ラシャドが続きを促してくる。ルトは軽くため息を吐いた。
「俺のせいで、エミルは生き延びたって、聞いて……。それで、どうしていいのかわからなくなって、気が付いたら飛び出してました」
「なんでお前のせいなんだ」
「その、俺には、魔術師の力があったから」
必要最低限な内容を伝える。これで満足してくれるかはわからない。伸しかかる距離からまじまじと顔を覗きこまれ、ルトは驚く視線からさっと顔を逸らした。
親は魔術師だったのかと聞かれるだろうか。詳しい出自は、ルト自身ですら知らない、聞かれても答えられない。
軽く身構えたルトは、逸らした顔の後ろで、ラシャドの短い吐息を聞いた。
「なら……お前は、俺から逃げたんじゃねぇのか」
「だからそれは」
最初からずっとそう言っている。思わず言い返そうと顔先を戻した。けれどラシャドの、あまりにも無防備な視線に口をつぐむ。
ルトを見つめる漆黒の瞳には、鎧をまとったいつもの鋭利さはどこにもない。あるのは穏やかさと優しさだった。ルトが、初めて見るほどの。安堵ともいえる表情だった。
「……あなたの子が、いるのに。子どもを、見殺しにするなんてできないです。逃げようなんて、思いません」
そこでようやく納得したラシャドが、汗ばむルトの肢体をぐっと抱きしめてきた。急な行動に、絡まった強い力から離れようと太い腕を掴んでもがく。
「く、くるし……」
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