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夕食を作っていたら、ラシャドが興味津々と絡んできたのだ。ルトが食べるはずだった質素な夕食は、ほとんどラシャドの胃袋に収まった。次の日からラシャドは宮殿外で食べてこず、必ず紫苑殿でルトの手作りを食べるようになった。そうなれば、話が変わる。
質素な食事は豪華になり、量も増える。二人分なんてかわいいものだ。とりあえず五人分の食材をもらい、調理場の地下にある保管室で保存しておく。足りなくなれば飛報石で呼んで、持ってきてもらうことになってしまった。そのときの給仕係の不機嫌さが、今でも思い起こされる。
がりっと苦虫をかみつぶしたウサギの獣人を思い出し、届いた食材を仕分けしながらつい苦笑した。苛立たしい態度を見せるが、給仕係はいつも食材を多めに入れてくれていた。それに、頼んでいない調味料も。
今度は念入りに手洗いを済ませて、大量の肉と野菜を取り出していく。小分けした分厚い肉を細長く切り、山椒と檸檬で味付けして、冷や棚へ寝かせた。魔術師が開発したという、本棚のような保管棚だそう。
他国と国交を持たないヌプンタでは拝めない代物だ。開閉式で奥行があり、扉を開ければひやりと冷気が漂う。常に一定温度に保たれる、優れものだった。
生みたての卵をいくつか茹でて、新鮮な野菜をゆがきサラダも作る。大豆の煮汁と酒粕を使い、スープも用意した。米粉でこねた団子に、ざっくり切った野菜も具に入れる。平べったい皿に、小麦を挽いた粗めの粉をわけておき、ルトは置時計を見た。
そろそろ夕刻だ。ラシャドが帰ってくるまで数時間ある。やりかけの掃除を手短に片付けて湯あみをした。グレンの関係も含め、誤解は解けた。はずだが、なんとなくラシャドの束縛が強くなったと思う。
ルトが逃げ出してから、時間も場所もお構いなしでルトに触れるようになった。雰囲気に流されて、行為に及ぶこともある。それなのに、ルトが身体を洗おうとすれば嫌がるのだ。
今のうちにと、しっかり湯を浴びて炊事場に戻る。下ごしらえした、肉と生卵を取り出して、しゃかしゃかと卵黄を溶いていく。米粉と、溶き卵と、小麦を挽いた粗めの粉を絡めて揚げた。
横に長い調理台には、足元の一部分に透明な小窓が取り付けられている。
内部が見える小窓を上にスライドすれば、火力の燃料となる薪を投入できるのだ。使える量を確かめて、小窓のなかに新たな薪をつぎ足す。
手のひらに乗る小さめの火炎袋を最後に入れて、長棒で叩き破裂させて発火した。小窓を閉め、順調に火がついていくのを確認する。加熱した調理台に鍋を置いた。一緒にスープも温め直すと、芳ばしい香りがホールに充満した。
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