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紫苑殿の孕み腹が、激しい凌辱を受けて生死の境をさまよっているなどと。
馬鹿な。ルトは紫苑殿の敷地内にいたという、なのになぜ。ラシャドの縄張りを、他の獣人が無断で立ち入ったのか。
ルトが毎日飽きもせず、中庭の手入れをしているのは知っている。宮殿付きの魔術師や侍従にやらせればいいものをと思うが、何が楽しいのか、嬉しそうに草花の世話をするルトを見てそのままにしておいた。
こんなことなら、中庭にも出さず殿内に閉じこめておけばよかった。
地を駆ける人の足は、いつの間にかしなやかな獣の姿に変わっていた。疾風のごとく大地を駆け抜く、勇ましい黒狼だ。
全身全霊で走り続け、壮大な皇帝の中庭からものの数分で紫苑殿に到着する。息を切らせながら、ラシャドは人の姿に戻ると紫苑殿の重厚な扉を開けた。迷いなく二階の寝室に駆け上がる。そこには数人の魔術師が、寝そべるルトを囲っていた。
ベッドの上で横たえられたルトは生きているのか死んでいるのか。顔色悪く、呼吸は浅い。ラシャドは治療の手をとめて駆け寄ってきた魔術師に、犬歯を剥き出しにして吠えた。
「どういうことだ! なぜもっと早くに知らせなかった!」
「ひっ、も、申し訳ありませぬ。子を孕んだ足環は黒くなり、異常を察知しにくいのです。足環の警告に気がついたときには、すでに瀕死で……」
「言い訳はいい。必ず助けろ。子も、ル――、孕み腹もだ!」
「はっ……!」
ラシャドの怒りを浴びた魔術師たちが全力でルトを治療する。甲斐あって、ルトの顔色は少しずつ良くなり呼吸も戻ってきた。転移にも耐えうると判断した魔術師は、ルトをラタミティオ塔へ送る。傷ついた孕み腹を集中的に治療する治癒塔だった。
先ほどの緊迫感は薄れ、代わりにラシャドの脳天がぐつぐつ煮えたぎる。ちらと、視界に映したルトの傷ついた全身はひどいものだった。
細い首にくっきり残る締め痕、腫れあがるほど変色した殴打の痕。皮膚を食い破る噛み傷に、砂利の上で行為に及んだとわかるほどの、柔い肌が擦りむいた痕跡。口腔の粘膜や食道も傷ついていたらしく、何よりも肛門の裂傷が目に余った。
よほど無茶な挿入を強制されたのか。口裂けのように赤く深い傷に、体内に収まる腸が肛門からはみでていた。無理な性交で押し出された脱腸だ。
「許さんぞ」
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