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グレンの硬い声音にルトはしばらくして表情を変えた。 なぜ要領のいいラシャドがそんな愚かな真似をしたのか。 答えにいきついたルトの両目が見開き、すぐ横に立つグレンを咄嗟に見上げた。 蛇の獣人に、身分が高い身内がいると聞いたのはまだ記憶に新しい。 偶然にしてはタイミングが良すぎる。 「俺のせいですか? けがをさせた相手って、もしかして……」 戸惑いながら口を開けば、困った様子で曖昧に頷かれる。 ルトの視線から間をとるように、グレンは破ったラシャドの服の残骸を、そっと脇に除けた。 空いた長い指先がルトの頬に移る。  少し痩せてしまった丸みのある頬を、なだめる手つきで優しく撫でられた。 「ルトは、本当に賢いな。おそらく君が考えた相手で違いない。 だが、ルトが気に病む必要はない。 君のせいではないよ。 ラシャドは自分の意のままに行動しただけだ。 それより、ルトのほうは? 調子はどうだ」 深い蜂蜜色の瞳に心配げに覗かれる。 頬に寄り添う手のひらの、温もりの柔らかさにルトは無意識にすり寄った。 獣人に触れられて安心するのは、この大きな手のひらだけだ。 おそらく後にも先にもグレンだけ。 ルトに乱暴を働かない手だとルトの本能が安らいでいる。 どんなときも、自分だけを撫でてくれる手に憧れたことがある。 もちろん大きな手の温もりを、与えられなかったわけではない。 ただ、その温もりを得るにはいつも条件が必要だった。 勉強を頑張ったから、子守りをしたから、利口でいたから。 自分は捨て子だと理解できたのがいつだったか覚えていない。 だけどそのとき、周りのアデラたちが両親に愛されているのを、幼い心で羨ましいと思ったのは覚えている。 シーデリウムに来てからは、ルトに触れる手は奪うものでしかなかった、それに絶望もした。 でもグレンは違った。 ルトの存在を丸ごと抱きしめてくれる。 ルトを守ってくれる手だと思わせてくれる。 優しい腕に、どれほど救われたか。 ひとつの見返りもなく無条件に触れてくれる、ルトはこの手が好きだった。 グレンの穏やかな雰囲気が好き。 青天の下で凪いだ風を感じられる、颯爽とした微笑みが。 「俺は平気です。魔術師に治癒してもらって良くなりました」 「だが、心の傷までは癒されない。 君が狙われたのは俺のせいでもあるのに。 俺は君に、何もできない。 悔しいよ。 心底、情けない」 「そんなことないです。あなたも、俺を助けてくれました」

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