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 ラシャドの腕に慣れてしまったら、辛い思いをするのは目に見えている。今回のように。後宮では媚薬など使ってもらえない。  ルトの命を最優先するために、一時的に仮死状態にされたと聞いた。子への供給をすべて止めてしまい、生まれる日が一週間ほど延びると言われた。だがこの調子で抱かれ続けたらまた駄目になる。  どうしてもラシャドに甘えては駄目なのだ。どれだけルトへの態度が変わろうとも。ラシャドを受け入れたらきっと、ルトの心がもたなくなる。今回の騒ぎは気を緩めたルトへの戒めだったのだ。  ひたすら看病だけに専念し、夜が訪れたころラシャドが目を覚ました。漆黒の瞳がぼんやりさまよいルトの姿を捉える。形の良い口元が、わずかに開いた。 「……み、ず、水を…くれ……」 「待ってて」  ルトは大きく頷き、急いで水を取りに行く。寝そべるラシャドに差し出しながら、広い背中を支えた。上半身を起こした額から冷たい布が落ちる。反射的に掴んだラシャドは、不思議そうな顔をして自分の上半身を見下ろした。念入りに手当てが施されたと気づいたのだろう。  掠れた喉にたらふく水を流しこんで、ルトに目を向けてきた。 「お前が手当てしたのか」 「う、うん」  コップを受け取りながらルトは遠慮気味に頷く。ラシャドが渋面を作り、深いため息を吐いた。 「この匂いは薬草だな、お前が採ってきたのか? 裏山で?」 「う……、うん……」  紫苑殿から一歩も出るなと常日頃から言われている。けれどこの薬草は山にしか生えない。叱られるのを覚悟してルトは身をすくめた。すると縮こまったルトを横目に、またため息をつかれた。 「怒らねぇよ、怯えんな。おかげでずいぶん楽になった」  言いたいことはあるのだろう、しかし、ラシャドは文句を言わなかった。逆に予想外に感謝され、ルトは大きな目をぱちりと動かした。 「本当に? それならよかったです」  安堵で口元が自然に綻んだ。見つめてくるラシャドの視線を強く感じ、長い腕が細い首に巻きつく。力強く手繰り寄せられ、きつく唇を吸われた。 「んむ……っ、ん、んんっ……っ」  角度を変えて、息継ぎに開いた隙間から厚い舌が滑りこんだ。上顎、歯列、舌の裏まで舐め尽くされる。息が苦しくなって、剥き出しのラシャドの腕をぎゅっと掴んだ。  小さな口角から唾液が滴り、顎先に垂れた唾液をラシャドの舌がなぞっていった。 「お前……俺に、力を使ったか……?」 「え」 「お前の癒しの力とかいうやつ」

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