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 ルトを間近で見下ろし、口元をあげたグレンは足早に立ち去った。後ろ姿を見送ってエミルたちをホールに通す。ラシャドと食事をする背椅子に案内し、みんなで腰を掛けた。  待ちきれなかったと、向かい合わせに座るパーシーがいち早く口を開いた。 「僕たち、何度かルトに会いたくて夜に抜け出してみたんだよ。でもこの近くに来ると、いっつも黒い狼がおどかしてくるんだ。どうやっても、紫苑殿には近づけなくて」 「黒い狼……」  ルトが思わず反芻した。ルトに関わる黒い狼なんてひとりしかいない。ラシャドの立派な耳と尻尾があれば、暗闇で狼に扮するなどお手のものだったろう。ルトに隠れて、パーシーたちを追い払っていたなんて。  ラシャドは紫苑殿に入り浸りだ。パーシーたちが近づけなかったのも、今さらながら納得した。  エミルは活発なラザに懐いているようで、ルトの淹れたお茶を手にして楽し気に喋っている。ルトの視線を察したのか、ラザがふと顔を向けた。 「さっきの獣人、ルトと仲がいいの? 俺たちを連行するみたいに仕向けて、ここまで連れてきてくれたんだ。半信半疑だったけど、言葉どおり俺たちには指一本触らなかった。獣人にも、あんな人がいるんだね」 「ほんと。ルトってすごいね。僕だったら、目を合わすのも怖いもの」  相槌したエミルにパーシーが大きく頷く。驚きと不安をまじえた面々と向き合った。けれど、ルトだって最初からグレンと親しかったわけじゃない。  初めて出会ったときは怖かったし、警戒心も剥き出しにした。それでも打ち解けるまでそう時間はかからなかった。 「人間を襲わない、優しい獣人もいるんだって、俺もあの人に会って初めて知ったんだ」  ルトが頬を緩ませて言う。そこでいったん会話を切って、後宮にいるみんなの話をせがんだ。  ユージンは子を孕み、新たな宮殿に移ったらしい。その前にトンミも孕んだと、ラザとパーシーが交互に教えてくれた。だがトンミは子を宿した後も、様々な獣人に抱かれ続けているらしい。  トンミに種付けした獣人が、与えられた宮殿の出入りを禁じていないせいだ。トンミ自身も喜んでやらせてくれると、他の獣人が話していたとパーシーが付け加えた。  エミルは、出産した牛族の子と一度も会っていないという。 「でも、僕はそれでいいよ。会いたくないし、顔見たってどうにもしないもの」 「う、ん……そう、だね」

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