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「なに……? 誰も呼んでなかったよな、なんで来たんだ……」 「また誰か孕んだのか……?」  ひとときの休息を得ていた少年たちが、不安そうに起きだす。小さな身を縮こませて寝台から抜け出すと、横一列に並んだ。魔術師は無言でかつかつと移動して、ルトたちを物色する。進む足先はルトの目の前で立ち止まった。 「アメジストが足環だな。お前は休むな。アドニス・セドラーク・シーデリウム皇帝陛下のお召しだ」 「皇帝、陛下?」  ルトが呆然と聞き返す。いったい何の冗談だ。しかしすぐ横にいたエミルのほうが蒼白になり、今にも悲鳴を上げそうになる。その様子を横目にしたルトは、どうにか冷静さを保った。  虫の息だったルトたちに平然と足環を授けた、冷酷な皇帝だ。 「ル、ルト……」  エミルの呟きが聞こえたけれど気に掛ける言葉がない。確かに、グレンには忠告をされた。けれどルトからすれば、皇帝陛下は雲の上の存在だ。ましてや獣人の皇帝など関わりようがない。実際、皇帝を目にしたのは一度きりだ。  シーデリウム帝国に連れてこられた初日に見た、黄金を固めたような瞳。ルトを見返す、冷たい視線がよみがえる。どこまでも冷徹な、ラシャドに貫かれるルトを蔑んだ目だ。思い出すだけで冷え冷えする。  信じられない思いで立ち竦んでいれば、魔術師がルトを催促した。 「ついてこい」  拒否権はなかった。ルトは、後ろ髪を引かれる思いでツエルディング後宮を立ち去った。  魔術師に誘導されたエスマリク宮殿で、宮殿付きの侍従らしき獣人に引き渡される。案内のもと、皇帝が住まう殿内にすくむ足を踏み入れた。  もう夜だというのに、いたるところに洒落た灯籠が輝いている。夜空を見通せる天上は遥か高く、小柄なルトなど明かりに引き寄せられた虫みたい。どこか遠い異国の地で、煌びやかに解放された壮大な野外に、間違えて飛び込んだ気分になった。  ぐるぐる、迷路のような渡り通路を巡っていく。背の高い獣人の後を、小走りに駆けた。そこでやっと進み続けた足を止める。到着したのは明らかに身分違いの、豪華な湯殿だった。

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